2004年12月14日21時50分掲載
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クリスマス・マーケットでにぎわう英国北部の古都ヨーク
【ヨーク(英国北部)14日=小林恭子】クリスマス用ショッピングに人々がいそしむシーズンとなり、欧州全域でクリスマス用飾り付け、地元の農産物、工芸品などを販売するクリスマス・マーケットが開催中だ。中でも、約50万人が訪れる英国北部の古都ヨークのクリスマス・マーケットは人気の場所の一つとなっている。
ロンドンから鉄道で約2時間。ビクトリア朝建築のヨーク駅に着く。19世紀後半に建てられた当時、欧州で最大の鉄道駅だったという。外に出ると、眼前に街の中心部を囲む12世紀から14世紀の間に建造された城壁が目に入り、一瞬、中世の町に降り立ったかのような錯覚に襲われる。
歩いて数分の距離に、英国最大といわれるゴシック建築の大寺院ヨーク大聖堂がある。13世紀から250年かけて建築された聖堂には世界中で最大と言われている186平方メートルのステンドグラスがはめ込まれている。クリスマス用のコンサート、特別のミサなどの予定が目白押しだ。
大聖堂から、中世の木骨造りの家にはさまれた狭い通りの石畳の路地をさらに歩くと、市の中心部にあたるマーケット街に行き着く。聖ニコラス(サンタ・クロースの別名)・フェアが開催中のコッパーゲートの青空市場では、地元で作ったパイ、ペーストリー、チャツネ、ケーキ、チーズ、ハムやソーセージ類、ワインなどで一杯だ。続くパーラメント・ストリートでは工芸品や衣類、クリスマス・ツリーの飾り付けのグッズの店が所狭しと並ぶ。ブランデー入りホット・チョコレートの店には、男性陣が列をなす。
ヨークシャーのチーズのブランドでは著名なウエンスレイデール・チーズをまとめ買いしたアンナさんは「これから、2人の子供のためにツリー用の飾り付けグッズを探すつもり」という。
コッパーゲートの通りの手前には、15世紀のチューダー朝の木造建築を修復した建物バーリー・ホールがある。この時代に市場に出回っていた革製品、錠前、工芸品などが販売されている。クリスマスなど特別の期間内には売り子たちがチューダー朝の衣装で客を迎えている。
モダンなショッピング街も歩いて数分の場所にある。陶器やガラス製品のほかに、ヨーク出身の女性と結婚したスイス人がオープンしたカフェ「ベティズ・カフェ・ティールーム」のアフタヌーン・ティーや菓子類、特にチョコレートは評判が高いという。
「ベティーズ・カフェ」のショップで、1つ5ポンド(約1000円)の小さな「クリスマス・プディング」をいくつも買い物かごに入れていたのは、台湾生まれのジャネットさんだ。もともとは各家庭で作っていたクリスマス・プディング(スパイス、ナッツ、ドライフルーツ、ブランデーなどが入った一種のフルーツ・ケーキ。暖めてクリームなどをかけて食べる)だが、既製のクリスマス・プディングを買う家庭も増えた。「知人のイギリス人のお婆さんが毎年クリスマス・プディングを作ってくれていたけど、今年はもう年取って作れないという手紙が来た。これがないと、クリスマスが来た気がしない」とジャネットさん。
英国では、クリスマスは親戚を含めた家族が家に集い、その絆を祝う日。クリスマス・マーケットで購入した食べ物や飾り付け用グッズは家族や親戚、友人たちと分け合うためのものだ。25日のクリスマスに向けて、クリスマス・カードを送り、受け取り、飾り付けや食べ物、プレゼントなどを買い込む日々が続く。
人口約18万のヨークは、クリスマス期間の11月末から1月上旬までの6週間で約50万の観光客が訪れる。年間では400万の観光客が訪れ、その20%が海外からやってくる。
ヨークへの観光客は1993年から2003年までの10年間で約13・3%上昇したという。ロンドンに観光客が集中しがちな英国で、どのように客数を増やしたのだろうか。ヨーク市役所で観光部門を担当するイアン・テンペスト氏に聞いてみた。
―クリスマス・シーズンの観光規模は?
昨年の場合、この期間に約50万人がヨークを訪れ、3700万ポンド(約74億円)使ってくれた。これはヨーク市民を入れると約5000万ポンド(約100億円)と推定している。小売店、宿泊施設、旅行会社にとって非常に重要なシーズンとなる。
―この期間の特別なアトラクションは?
クリスマス専用のパンフレットを作り、ウェブ・サイトを立ち上げた。クリスマス・マーケットをオープンし、ヨーク大聖堂でクリスマス・キャロルのコンサートなどを開催している。歴史的に由緒ある建物などをライト・アップもしている。
―ヨークの観光地として特徴は?
イングランドでも最も歴史的に由緒のある都市だ。ローマ人がヨーク(当時は「エボラカム」と呼ばれた)をきずきあげたのは紀元71年で、2000年の歴史を持つ。その後、アングロ・サクソン人、バイキング(ヨークを「ヨービック」と呼び、これが現在の名称につながった)、ノルマン人に侵略されたが、この経緯がヨークの街としての深みを増すことになったと思う。過去の歴史が建築物、モニュメント、通りの名前などに、今現在も残っているのが他にはない部分だ。
―観光振興にどのようなことをしているのか?
「ファースト・ストップ・ヨーク」と名づけた、官と民のパートナーシップの仕組みを作っている。それぞれがばらばらに活動を行うのではなく、お互いに協力し合って観光振興をするのが目的だ。参加しているのはヨーク市役所と民間の旅行業者らだ。
1995年に開始して、具体的な目的としては、訪問者がより長くヨークに滞在する、客単価をあげる、観光客の全体数を増やす、ヨーク近辺の住民の雇用を作る、などだ。共同作業の過程で、顧客理解、提供サービスの質を上げる、顧客のニーズに沿ったマーケティング、協力体制の強化を今後3年で行うこととした。
―「顧客の理解」にはどうするのか?
1995年以来、市内の12箇所で訪問客にインタビューを行ってきた。どんな人がヨークに観光で来るのかを詳しく知るためだ。また、ヨークに来ようと思っている人たちから意見を集めるという調査も行った。
質を高めるという観点からは、いつ訪れても途切れなく何らかのイベントが起きているという状態を保つようにしている。また、市の中心部の飲食店、歓楽施設と連携を図り、夕方から夜にかけて質の高い娯楽が提供されるようにした。旅の予約をネットを使って即時できるようなシステムを準備した。ウェブ・サイトの工夫として、滞在当日の夜楽しめるさまざまなエンターテンメントの情報を、毎日更新している。また、観光客が自分たちで歩きまわれるように標識を工夫した。観光業に携わる人員のトレーニングも重ねて行うようにしている。
官民が共同に行うプロジェクトであるという強みを生かし、地元の人もさまざまな施設の恩恵にあずかったり、イベントに参加できるように、ほとんどのアトラクションには地元住民は無料にし、どのようなイベントが住民に人気があったかも調査している。
住民を巻き込むという計画の一環として、現在、ヨーク全体の人口の中で、外国人は2%。その中でも近年増えてきたのが中国人。昨年、初めて中国の旧正月を兼ねたチャイニーズ・フェスティバルを開催し、好評だったので、今年も2月に開く予定だ。
―今後は?
毎年400万人がヨークを訪れるが、一晩でも滞在した観光客の数を比べると、1993年から2003年の10年は、その前の10年と比べて13・3%増加した。滞在の長さも10%近く上昇した。観光客がヨークで使った金額もこの10年間で、その前の10年よりも42%増加。現在、ヨークの10%の雇用は観光業となっている。
しかし、ヨークのモットーは「決して立ち止まらないこと」だ。常に何かが起きている街としてアピールしてゆき、レストラン、カフェ、イベントを増やしてゆきたい。
かつて栄えた鉄道関連業、チョコレート産業にかつての勢いはなくなった。観光、ITビジネス、科学関連の雇用がもっと増えるようになれば、と願っている。
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