2005年04月27日01時57分掲載
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NHKが朝日と内部告発の長井氏を再び非難 VAWW−NETジャパンの控訴審第4回口頭弁論
【東京26日=浅野健一】NHKの番組改ざん問題で取材を受けた「戦争と女性への暴力・日本ネットワーク」(VAWW−NETジャパン、以下、VAWW)がNHKなど3社に損害賠償を求める民事訴訟の控訴審第四回口頭弁論が、4月25日東京高裁101号法廷(秋山寿延・裁判長)で開かれた。裁判は当初、1月17日の前回口頭弁論で結審する予定だったが、朝日新聞による安倍氏らの「政治介入」報道と、長井暁チーフ・プロデューサー(当時デスク)が実名と顔を出して記者会見したことにより、新たな事実が報道されたため、審理が続いている。(浅野健一)
VAWW側も被告側三者も、いずれも意見書などを提出していた。VAWW側は、安倍晋三・中川昭一の両議員と、NHKの海老沢勝二会長、松尾武氏(当時の放送総局長)、野島直樹氏(当時の総合企画室局長)、そして長井暁氏の6人を証人申請している。
この日の傍聴席は原告を支援する市民で埋まった。
原告のVAWW側は、政治家による言論介入が明らかになったとして、NHKに3000万円の損害賠償の追加を求める「請求の趣旨の拡張」に関する42ページの準備書面を提出した。
原告側は新たに、放送当時の伊藤律子番組制作局長、吉岡民夫教養部長、永田浩三教養部チーフプロデューサーの3人を証人申請した。代理人の弁護士は14日、控訴審の東京高裁に、自民党の安倍晋三、中川昭一両衆院議員とNHK幹部ら計6人を証人申請した。
一方、NHK側はNHKの内部告発窓口である「コンプライアンス(法令順守)推進委員会」が1月19日に発表した「不法行為はなかった」という結論をもとに、「番組は公正、公平につくられ、吉・教養番組部長が松尾放送総局長、伊藤番組制作局長らの意見を踏まえて、自律的に編集したもので、不偏不党を貫いた」と主張する準備書面を出した。
秋山裁判長は「付加的に請求すると言うのが、別個に請求するのか、従前の請求の拡大とするのかを次回までに明確にしたうえで、被告側に反論してほしい」と要請した。原告側はこれに応じると回答し、NHK側は「原告側の主張をみたうえで、必要なら反論する」と答えた。
VAWW側の緑川弁護士は口頭弁論終了後に弁護士会館で開かれた報告集会で「松井やより氏らがNHK取材班に便宜を図ったのに全く異なった内容の放送がなされたという点と、協力者に説明をしなかった説明義務違反を問う裁判だ」と裁判の意義を説明。「1月12日の朝日記事と、その後の長井暁氏の会見で政治家の介入が明らかになった。政治家の介入によって番組の改編が行われたという疑いはあったが、提訴の時には証拠がなかった。政治家の介入がなかった改変と、政治家の圧力があって、放映前日にNHKによって番組を改編されたのでは、損害が異なるので、賠償額を付加した」と説明した。
また、「右翼のことは分かっていたが、政治家の介入を証明する人がいなかった。今になって出てきた。法的なテクニカルなことになるが、どういう位置づけに構成していくかが次回期日までの大きな課題だ」と述べた。
VAWW共同代表の西野瑠美子氏は「弁護士たちと我々で推考を重ねて、論点がここに集約された立派な準備書面ができた」と述べた。また、「外部からの圧力はないと言いながら、上層部からの言論の弾圧を認めた内容だ。NHKは朝日報道と長井氏の証言について、信用性で重大な疑義があるなどと繰り返し強調している。朝日記事は証拠としての信用性がなく、客観的事実に反すると言うのだが、その根拠は、『朝日新聞は私が呼び出していない』『勝手にNHKが来た』などという安倍氏の発言や、NHK幹部との面談の日時を修正した中川氏の言い分を鵜呑みにしている。全く客観性に欠けた主張だ」と語った。
NHKは国会の答弁などで、政治家への番組内容の説明は、「通常の業務」と主張している。また、「予算、事業の説明は与野党の議員に対して広く行っている」とも説明している。しかし、安倍氏と会ったNHK幹部は予算の担当者ではなく、安倍氏ら議員側もNHK予算を審議する担当者ではない。
西野氏は「番組問題が起きたのは、教科書検定の年だった。その年、つくる会の教科書が初めて検定を通った」と指摘。これに呼応して慰安婦の記述を載せた教科書が4社減った。毎日新聞が、政治家が教科書会社に圧力をかけたというスクープ記事を載せた。安倍氏は、97年に教科書会社の社長を呼びつけたこともあるという。
報告集会では「コンプライアンス推進室の結論について、日本放送労働組合も反対していない。調査結果の不当性を暴こう」「NHKが政治家への説明を通常業務の範囲内と言っているのをどう崩すかにかかっている」などの意見が出た。
西野氏は、「長井氏が記者会見に踏み切ったのは、会長側近の不正は調査もしないが、末端の職員のことならすぐに公表するというコンプライアンス推進室の体質に怒りを感じたからだろう。客観的事実が局内の力学で決まることになる。我々が本訴訟で、そもそも求めたのは、真実が知りたいということであった。真実の解明には、世論の力しかない」と述べた。
原告代理人の飯田正剛弁護士は「今までの主張との関連で請求するのか、新たに独立して請求し、証人を立てて事実解明を迫るのかを検討している。裁判に勝つということと、事実解明の成否をどう考えるかだ」と話した。
西野氏は「NHKの七人の代理人の弁護士の費用も受信料から出ている」と述べた。
次回の口頭弁論は、7月20日(月)午前11時から同じ法廷で開かれる。
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