2005年05月18日11時21分掲載  無料記事
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シンガポール人のブログ閉鎖に追い込まれる 政府の圧力で

 主流メディアが報じないような「隠された事実」を公表したり論じたりすることで、ときには政府当局を慌てさすだけの機動力を発揮している「ブログ」(ウェブサイトによる日記風ジャーナル)。いまなお言論統制が厳しいことで知られるシンガポールでは、このほど政府当局の政策を批判するコメントを掲載した米国留学中のシンガポール人学生によるブログが政府当局の圧力で閉鎖に追い込まれるという出来事が起きた。政府当局がブログの影響力に神経を尖らせているということを示すエピソードともいえそうだ。(クアラルンプール=和田等) 
 
 シンガポールのトゥデイ(5月10日付)などによれば、米国のイリノイ大学に留学中のチェン・ジアハオさん(23)は、個人のブログに科学技術研究庁(A*STAR)の奨学金制度を批判する発言を掲載した。この批判では同庁のフィリップ・ヨー長官の名前にも言及していたという。 
 
 これに対してA*STARは、名誉毀損でチェンさんを告訴すると警告、脅迫的な反応を示した。しかしA*STARは、チェンさんのどのような言及が同庁の名誉を毀損しているのかについて、具体的な説明を一切しなかった。 
 
 そのためチェンさんも当初、シンガポールをベースとする別のインターネット・ジャーナルで自分がブログに掲載した文言のどこが名誉毀損にあたるのかわからないとの戸惑いを示していた。 
 
 チェンさんによれば、A*STARのヨー長官は具体的な箇所は示さずに、同長官とA*STARに言及したブログ掲載文書をすべて削除するよう要求したという。 
 
 結局、告訴をちらつかせた同庁の圧力の前にチェンさんは謝罪を余儀なくされ、10日に自身のブログに「ブログでの発言によって当局に迷惑をかけたこと」を謝罪する文を掲載。今後一切インターネット上でそのような発言を行なわないと表明したうえで、ブログを閉鎖した。 
 
 「公に入手できる情報を私なりに解釈してそれに対する考えを公表したことが誤解を招く恐れがあるというのであれば、ヨー長官はそれを訂正しようとすべきだったのに、そうせずに名誉毀損で私を告訴すると脅しをかけてきたことにがっかりしている」とチェンさんは失望感を隠せない様子だ。 
 
 さらにチェンさんは「当局のこうした行動が若いシンガポール人に自分の意見をはっきり表明しようとの動機づけを促していくとは言いがたい」と、当局の取った姿勢に懐疑的な見方を捨てていない。 
 
▽裁判で破産に追い込む 
 
 一方、A*STARのヨー・ウェンチン報道官は「当庁はこの件について批判とはとらえていない。事実ではない言及を対象にしたもっと深刻な事柄だとみて措置をとったというのが当庁の見解だ」と語ったが、それ以上の詳しいことは説明しなかった。 
 
 シンガポールはしばしば、政治活動やメディアに対する厳しい規制を設けているとして国際的な批判の的になってきている。また同国では政府指導者が、政府や指導者を批判した野党政治家や外国の新聞を名誉毀損で告訴し、ことごとく勝訴してきたという歴史がある。多額の賠償金支払い判決を受け、破産に追い込まれた野党政治家もいるほどだ。 
 
 政府指導者らは、自分たちに対する誤った発言をした相手を告訴する権利があるとの立場を堅持している。 
 
 こうした同国の事情が、チェンさんを不本意ながら謝罪とブログの閉鎖に追い込んだといえそうだ。 
 
 これに対して国際的な報道の自由擁護団体、「国境なき記者団」と「ジャーナリスト擁護委員会」はチェンさんが告訴の脅迫を受けたことに対する懸念を表明。「こうした恫喝によってシンガポールのブログは既存のメディアと同じように臆病で従順な媒体に変質させられてしまう可能性がある」(国境なき記者団)と批判的な見解を示している。 


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