2005年05月29日11時23分掲載  無料記事
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留学生目当ての大学設置構想も 地位活性化にと豪州

 米国の対テロ戦争以降、米国への学生ビザ取得や入国が厳しくなり、オーストラリアなど他の英語圏に学生がシフトする現象が起きている。南オーストラリア州では、この機を逃すなとばかりに、地域活性化の一環として留学生を目当てにした私立大学の誘致構想を進めているという。しかし、一部の関係者から授業料収入目当ての留学生ビジネスとの批判の声も上がっている。【アデレード(南オーストラリア州)・木村哲郎】 
 
 地元紙アドバタイザーによると、新計画に関しラン州首相は「学園都市としてアデレードの国際化を目指す」と明言。詳細発表には早いとしながらも、新大学には情報工学など留学生に魅力的なコースの設立が必要だと述べた。同紙の社説も、新大学の設立は地域活性化と留学生の双方にメリットがあると強調している。 
 
 オーストラリアでは現在約30万人の留学生が学んでいるが、留学生数は年々増えている。今年3月にオーストラリア政府国際教育機構(AEI)が発表した統計によると、オーストラリアでの留学生の数は03年は対前年比12・5%の増加、04年も増加率は下がったものの前年比7%増になっている。これに対して米国では、米誌ニューズウィークによると、03年に留学生の数が2・4%減少。外国人留学生の減少は30年間で初めてだという。 
 
 この数字を見る限り、オーストラリアは、米国の対テロ戦争により間接的に“恩恵”を受けているといえそうだ。 
 
 学生の動向をみると、アジア諸国からの留学生増が目立つ。今年3月に発表されたオーストラリア文部省の報告では、インドからの留学生の数が42%の増加と著しく、以下バグラディシュ25%、中国22%、中東地域20%と続く。アジアからの留学生の大多数は、本国からの距離の近さと、米国や英国に比べ安い学費と生活費で同レベルの教育が受けられる環境を基準にオーストラリアを選んでいる。 
 
 このような留学生の増加は大学側からも歓迎されている。96年に現ハワード政権が誕生してから、教育機関補助金の減額などでどこの大学も経済的に自立することを余儀なくされているからだ。国が負担する奨学金や個人教育補助金を使い学習するオーストラリア人学生と違い、授業料全額負担の留学生からの「収入」は大学に不可欠なものとなっている。 
 
 中央クィーンズランド大学では全収入の4割近くが留学生からの学費。名門校でも事情は同じで、シドニー大学が12%、メルボルン大学が15%となっている。また教育による収入は5.6豪ドル(日本円で約450億円)に上り、観光業とならび、外貨収入の見込める大きな産業の一つとなっている。 
 
 南オーストラリア州の私立大学誘致計画は、こうした“追い風”を積極的に利用しようというものだが、問題点も少なくない。 
 
 アデレードのある50代女性講師は、「今回の計画は米国入国の難しいアジア人の弱みをついたもの」と州政府の構想を批判。また公立大学がほとんどのオーストラリアで、授業料の高い私立大学に入れるオーストラリア人学生は少数であることから、今回の計画を「ビジネス企画」と切り捨てる。しかし、留学生がいなければ、大学の経営が苦しくなる状況になっているのも事実だ。 


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