2005年06月20日13時08分掲載
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ビルマ軍政はなぜスーチーさんを恐れるのか 世界各地で誕生日記念の催し
ビルマ(ミャンマー)の民主化運動指導者アウンサンスーチーさんの60歳の誕生日にあたる19日、世界各地で彼女の自宅軟禁からの解放とビルマの民主化を求める催しが行われた。東京での参加者は、スーチーさんの思想と行動の現代的意味を問うシンポジウムに耳を傾け、在日ビルマ人らによる軍政批判の寸劇、民族舞踊などに拍手を送った。またダライ・ラマ14世やデズモンド・ツツ大司教ら歴代ノーベル平和賞受賞者14名から同賞受賞者であるスーチーさんへの記念メッセージも披露された。(ベリタ通信=永井浩)
東京・千代田区の在日韓国YMCAアジア青少年センターの会場には、民族衣装に着飾った在日ビルマ人や日本人ら約400名が集まった。
▼ビルマの伝統に根ざした民主主義の追求
来賓として挨拶した、スーチーさんのいとこで米国を拠点に民主化活動を続けるビルマ連邦国民民主政府(NCGUB)首相のセインウイン氏は、ワシントンやスコットランド、アイルランドなどでも記念の催しが行われているのに、肝心のビルマではそれがいっさい許されない異常な事態を指摘。軍政の将軍たちはなぜ、ひとりの女性をいつまでも自宅軟禁にしなければないほど恐れるのか、と問うた。同氏によれば、それは「スーチーさんが自分と家族の生活を犠牲にしてまでもビルマの平和と民族和解のために働く姿を、多くの国民が尊敬しているからだ」という。
これを受けて、アウンサンスーチーの研究者として知られる伊野憲治・北九州市立大学教授は、シンポジウムの基調講演で、彼女の思想と行動の原点について講演した。
同教授によれば、ビルマの独裁者たちは恐怖による支配で人びとを堕落させ、さらに伝統・文化・価値の独占と支配、狭隘なナショナリズムの鼓舞によって権力を維持しようとしている。彼らは、アウンサンスーチーのいう人権・民主主義は西欧思想の受け売りであり、彼女は「民族を裏切る西欧の手先」と非難する。
しかし、彼女がめざしているのは、軍政下で喪失された国家・国民の尊厳の回復である。アウンサンスーチーが民主化運動を「第二の独立闘争」と位置づけるのは、植民地支配下でと同じように独立後の現在も国家・国民の尊厳が失われているからだ。
では、いかにしてこの目標を達成できるか。伊野教授は彼女の行動を支える思想のバックボーンとして、彼女の父親でビルマ独立の父とされるアウンサンとインドのマハトマ・ガンジー、仏教思想を挙げる。
アウンサンからは、国家・国民のために誠実さと忍耐、勇気をもって自らの使命を果たす大切さを受け継いだ。
ガンディーからは、「恐れからの解放」と政治と倫理の結合という精神を学んだ。前者はアウンサンスーチーが地方遊説などで訴え続けている点で、一人ひとりが恐れから解放されることが自治の精神の基礎とされる。
またガンディーによれば、世の中には真理はひとつしかなく、したがって政治と倫理は分離できない。政治は真理の実践の場なのである。そこで強調されるのは、目的と手段の合一である。アウンサンスーチーがあくまでも非暴力と不服従によって民主化の実現をめざすのは、本来の目標実現のために手段で妥協することを拒否するからである。暴力に訴えて民主化を達成できたとしても、そのような民主化はまた暴力による否定を正当化することにつながりかねない。目的のためには手段を選ばなくてもよい、という西欧近代の考えは拒否される。
仏教からの教えは、「慈悲(ミッター)」である。アウンサンスーチーがめざす政治とは、慈悲の実践であり、それが人権・民主主義なのである。
以上から、伊野教授は、「アウンサンスーチーの基本姿勢はビルマの伝統のなかから独自の民主主義を発掘し、実践することだ」と分析する。そしてこの点こそが、軍政が一番恐れていることなのだとされる。だから彼らは、彼女を西欧の手先呼ばわりして憎悪するが、多くの国民からすればビルマの伝統・文化・価値を本当に体現しているのがどちら側かは自明である。
▼軟禁下のスーチーさんの生活
この日の世界同時イベントは、南アフリカの反アパルトヘイト運動指導者ネルソン・マンデラ氏の釈放を求めて展開されたキャンペーンをモデルにしている。17日にはロンドンなど世界の数ヶ所のビルマ大使館周辺で、「ビルマに自由を」「スーチーさんの解放を」と叫ぶデモが行われた。主催者は、これによってただちに軍政を動かし、スーチーさんの解放を実現できるとは思っていないが、これからも粘り強い行動を続け国際世論を喚起していきたいとしている。
AP通信がビルマの首都ヤンゴンからの情報として伝えるところによると、スーチーさんの外部との人的接触は2人の主治医の訪問だけだが、その訪問回数も昨年以来減らされているという。買い物は彼女の率いる最大野党国民民主連盟(NLD)のメンバーが行っているが、入り口で買い物の中身をすべて軍の警備員によってチェックされている。
料理など彼女の身の回りの世話は60代半ばの女性とその娘さんが行っている。ラジオや国営の新聞、テレビに接することは可能だが、衛星テレビの受信は許されていない。手入れのされない邸内の木々はジャングルのように生い茂ってきる。
▼ダライ・ラマ14世からアウンサンスーチーさんへの書簡
2005年6月8日
ビルマ(ミャンマー)連邦
ヤンゴン市大学通54−56
国民民主連盟(NLD)気付
アウンサンスーチー様
アウンサンスーチー様、
拝啓
私たちのように海外にいる者や、ビルマ国内のあなたの同志たちと、あなたとの連絡はあまりに長いこと途絶えたままになっているように感じられます。あなたの心身の健康と幸せへの懸念は募るばかりです。あなたはまた、ご家族や多くのご友人方からの愛に満ちた言葉や励ましのメッセージも、これもまた長いこと一切受け取っておられないのではないでしょうか。だからこそ私は、あなたの 60 歳の誕生日というこの機会を通じて、お祝いの言葉を述べさせていただくと共に、あなた自身の健康と長寿を願うのです。そしてまた、あなたがビルマの人々に向ける、心からの厚い好意が成就されるように祈りを捧げるのです。
おわかりのこととは思いますが、私はチベット人として、あなたが現在直面しておられる厳しい事態に特別な共感を覚えています。チベットとビルマの人々は、過去一貫して隣人であり続けるだけでなく、安寧と慈悲を説く仏陀の教えに従うものとして、数々の価値と願いを共有してもいます。また皮肉なことに、ここ数十年来、私たち両国の人々は共に、自然に正当な形で自由を求め、その実現の機会を探っていますが、こうした取り組みは力づくで押さえ込まれ続けています。
私が深く尊敬するのは、こうした不当な抑圧に直面しながら、非暴力的な手段に忠実であり、受動的な抵抗を用い、対話と妥協と交渉を通じた解決を求めるようとするあなたの決意です。しかし、私たち2人には痛いほどわかっていることですが、こうした物事への取り組み方が実を結ぶには、争いの当事者が話し合おうと互いに身を乗り出さなければなりません。したがって、 私はこの場を借りて 、ビルマ政府に対して、今すぐあなたの軟禁を解くよう、またビルマのあらゆる人々の最終的な利益のために、ただちにあなたとあなたが属する政党との対話を再開するよう訴えます。今が多難な時期であることに間違いはありません。しかし決して希望を失っても、諦めてもいけません。私自身の、また多くの人々のあなたへの思いは、つねに、ビルマというひっそりとした大地(訳注:アウンサンスーチー氏の詩 "In the QuietLand"を踏まえていると思われる)で隔離されているあなたと共にあるのです。私は確信を持って次のように言うことができます。このような心からの支援の気持ちが、たとえ直接あなたのもとに届かないとしても、あなたは、ここにこめられた思いを通じて、力と恵みを受け取られるのです。そして最終的には真理と自由、正義が勝利するのです。
祈りと厚情を込めて敬具(ダライ・ラマ法王の署名)
(訳、箱田 徹)
www.burmainfo.org/assk/DASSKbday2005-HHDalaiLama.html
▼ノーベル平和賞受賞者からの公開書簡
アウンサンスーチーさんの60歳の誕生日に際して
2005年6月
私たちは、アウンサンスーチーさんの60歳の誕生日を記念し、ビルマ国民と、民主化、人権、民政を求める彼らの正当な闘いとに連帯していることを改めて主張したいと思います。
私たちの仲間、ノーベル平和賞受賞者アウンサンスーチーさんは15年近くも自宅軟禁されています。スーチーさんの決心と勇気とは私たちのインスピレーションとなっています。このおめでたい日にスーチーさんに心からの祝福を贈らせていただきます。
私たちの多くは、母国で大きな政治的変化が起きるのを目撃してきました。ビルマにも変化が訪れます。現軍事政権は正統性を欠き、暴力と恐怖とで国を統治していますが、正義の力の前に屈服することになります。そしてビルマ国民は、自分たちの運命を自分たちで再び動かすようになるのです。しかし私たちはこれまでの経験から、専制政治は自然に崩壊するものではないこともわかっています。自由とは、それがまだ認められていない人々と、既に自由である人々によって共に要求され、守られるべきものなのです。
世界中の多数の人々や国々がビルマでの苦しみを知り、支援の手立てを探してきました。最善の方策とは、苦しみの原因である軍政ではなく、ビルマの人々を支持することです。私たちは、ビルマ軍政に対する圧力をかけ続けるよう国際社会に求めます。軍政が保身のために必要とする富を与えないように、軍政に制裁を課している諸国を賞賛します。こうした措置は、拷問、不当拘束、強制労働、強制移住、強かんなどの悲惨な人権侵害を受け続ける、国民民主連盟(NLD)や諸民族との願いに沿ったものです。このようにして制裁を受けた軍政の側は、自国民と和解するまでは世界と和解できないことを思い知らされるのです。
非常に豊富な人的資源と天然資源に恵まれたビルマは、いつの日か地域のリーダーになるでしょう。しかし、国民の真の代表者である政府ができるまで、その日は決して訪れないのです。私たちは、2006年にビルマがASEAN(東南アジア諸国連合)議長国になるのを阻止するキャンペーンを始めた東南アジア諸国を支援します。ビルマがASEANに加入を認められたのは国民の生活を改善するためで、ASEANを貶めるためではありませんでした。
すべての人々や国家はビルマ軍政に対し、1500人近くの政治囚を直ちに無条件で解放すること、諸民族に対する民族浄化作戦を止めること、そして真の民主化に向けた移行を始めることを求めるべきです。それはビルマの将来に向けた唯一の希望であり、世界中のビルマの友人が受け入れるべき唯一の結果でもあるのです。
署名
ワンガリ・マータイ(2004)
シリン・エバディ(2003)
ジョン・ヒューム(1998)
デイビッド・トリンブル(1998)
ジョディ・ウィリアムズ(地雷禁止国際キャンペーン)(1997)
カルロス・フィリペ・シメネス・ベロ(1996)
ジョゼフ・ロートブラット教授(パグウォッシュ会議)(1995)
リゴベルタ・メンチュ(1992)
ダライ・ラマ14世(1989)
エリー・ウィーゼル教授(1986)
デズモンド・ツツ大司教(1984)
アドルフォ・ペレス・エスキベル(1980)
ベティ・ウィリアムズ(1976)
マイリード・コリガン(1976)
*( )内は受賞年。
(訳、秋元由紀)
http://www.burmainfo.org/assk/DASSKbday2005-openletter.html
*書簡はいずれもビルマ情報ネットワーク(BurmaInfo)からの転載です。
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