2005年06月28日08時03分掲載
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マイクロソフト、海賊版使用の“密約”うっかり発表? IT業界大騒ぎ
コンピューターのソフトウェア企業にとり最も頭の痛い問題は、巨額の開発費を投入して制作したソフトが不正にコピーされ、安い価格で売られること。世界最大のソフトウェア会社マイクロソフトも海賊版被害を免れない中、インドネシアから「コンピューター1台当たり1ドル(約106円)を支払うことで、ビル・ゲーツ同社会長がソフトの海賊版使用を同政府に認めた」との報道が流れた。この報道にIT業界は一時、大騒ぎとなったが、同社はこれを即座に否定。とはいえ、業界内には「両者が海賊版使用で“密約”を結んだ可能性も否定できない」との憶測も飛んでおり、真相は依然としてやぶの中だ。(ベリタ通信=都葉郁夫)
コンピューター用のソフトウェアを含め、知的所有権が確立している先進諸国では、使用側の企業あるいは官公庁などが海賊版を不正使用することはめったにない。また、先進諸国では監視と取り締まり体制が整っているため、ソフトの海賊版が「わがもの顔」で出回ることもまれだ。
しかし、途上諸国では最新版を含めて多種多様なソフトウェアが、極めて安い値段のまま電気屋街などで堂々と売られているのが現実。インドネシアの首都ジャカルタでも北部に位置する中国人街コタの一角にある電気屋街へ足を運べば、海賊版がいとも簡単に入手できる。
マイクロソフト社を含む大手企業で組織するビジネス・ソフトウェア連盟によると、2004年時点で調査したところ、インドネシア国内で販売されているソフトウェアのうち、何と84%が海賊版だったという。
マイクロソフト社はこれまでに、インドネシア政府の各官庁に設置されている計「5万台」にも上るコンピューターが同社のソフトウェア、ウィンドウズの海賊版を使用している事実をつかみ、同政府に対し、海賊版の使用制限を速やかに実行するなどの対応策を講じるよう要請していた。
そうした中、インドネシア政府のジャリル情報相からIT業界をびっくりさせる発言が飛び出した。地元の英字紙ジャカルタ・ポストによると、情報相が、「マイクロソフト社は、インドネシア政府がコンピューター1台当たり1ドルを支払うことで、海賊版ソフトの継続使用を認めてくれた」と明らかにした。つまり、同社に5万ドル(約530万円)を払えば、海賊版を破棄することなく、継続使用できるというのだ。
また、情報相はインドネシアの国家財政に余裕のない点を指摘、「マイクロソフト社は『ない袖は触れない』というわが国の窮状をよく理解し、現実的な判断をしてくれた」と、その“英断”を高く評価。その上で、同社が(1)インドネシア政府は将来、マイクロソフト社の正規の製品を購入する(2)海賊版取り締まりに全力を挙げる(3)海賊版使用を漸減していく――の条件を付け、同政府もそれに同意したと言明した。
さらに、情報相は「マイクロソフト社との交渉に突破口を開けたのは、ほかでもないユドヨノ大統領自身で、5月末に訪米したのを機に、ワシントン州シアトルにあるマイクロソフト本社を訪れ、同社の総帥ビル・ゲーツ会長と海賊版問題で“直談判”し、今回の合意に漕ぎ着けた」とも続けた。
海賊版使用承認説に「ゲーツ会長とユドヨノ大統領」という超大物の名前が登場したことから、インドネシア国内では同合意をマイクロソフト社の「粋な計らい」と受け止められた。
ところが、波紋がおさまる間もなく、マイクロソフト社の応報担当者は「インドネシア政府に海賊版ソフト使用を認める合意などは一切ない」と即座に否定し、情報相発言に冷水を浴びせた。とはいえ、担当者は「わが社は、同政府および国民に納得してもらうため、最善の方法を共同で模索し続けるだろう」とも発言、海賊版ソフト問題をめぐりインドネシア政府側と何らかの接触を行っていることを明らかにした。
それにしても、わずか5万ドルの支払いのみで海賊版ソフトの継続使用を認めさせたという今回の“合意”が事実とすれば、昨年10月の就任以来、汚職撲滅の不徹底やスマトラ島沖大地震・津波の未曾有の災禍などに苦しむユドヨノ大統領にとって、起死回生のクリーンヒットとなり、今後の政策推進にも弾みが付くはずだった。
このためIT業界や政界には今、“密約”存在説を前提に、「功を焦り過ぎたユドヨノ政権が歓喜のあまり、同社との“密約”をうっかり漏らしてしまった」「マイクロソフト社は当面、海賊版使用を黙認し、将来の同社製品納入という実をとった」とする、うがった見方まで飛び交っている。
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