2005年07月14日23時29分掲載  無料記事
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モスクワでレイプ犯殺害の女性に有罪判決 「正当防衛」と人権団体などは反発

 ロシアでは、レイプ犯罪が起きた場合、女性が非難されることが多いという。夜遅くまで外出していたためだとか、挑発的な派手な服装をしていたとか、まるで落ち度は女性にあるかのように批判される。29歳の主婦アレクサンドラ・イワニコワさんも、その一人。車の中でレイプされそうになり、バッグに持っていた護身用のナイフで相手を刺した。男はあいにく出血多量で死亡したが、イワニコワさんは、その時、自分が殺人罪に問われようとは、夢にも思っていなかった。(ベリタ通信=江口惇) 
 
 各種報道を総合すると、事件が起きたのは、2003年12月8日。同夜モスクワ南部で、イワニコワさんは、自宅に戻るためタクシーを拾った。タクシーといっても無許可営業で、モスクワでは、こうした車が多い。値段交渉の結果、運転手は自宅まで約4ドルで行くことに同意した。 
 
 ところが自宅に着いても止まらず走り続け、ようやく暗がりで停車。男は車のカギを閉め、彼女の髪をつかんで性行為を要求。男は「言うことををきかないと、仲間のところへ連れて行き、輪姦するぞ」と脅したという。 
 
 男は、イワニコワさんがおとなしく応じると思ったかもしれない。しかし、彼女は16歳の時、ナイフを突きつけられてレイプされた経験があった。それ以後、護身用に台所用のナイフをバッグに隠し持っていた。「待って!」と、イワニコワさんが言葉を口にした瞬間、彼女を押さえていた男の力が緩んだ。その時、ナイフで男の脚を刺し、車から飛び出して警察に助けを求めた。 
 
▽執行猶予付き禁固刑に 
 
 男は23歳のアルメニア人で、動脈が切れていたため出血死した。捜査当局は、彼女の正当防衛を認めず、殺人罪で起訴。05年6月、モスクワの裁判所は、イワニコワさんに執行猶予付きの禁固2年の有罪判決を下し、男の遺族に7200ドルの賠償金を支払うよう命じた。 
 
 この判決に対し、イワニコワさんを支援する人権団体などが強く反発、世界的な反響を呼んだ。イワニコワさんは判決を不服として控訴。検察当局は、世論の批判が高まる中で、控訴審に対し、一審判決を撤回してほしいと異例の要請をする羽目になった。 
 
 控訴審は7月初め、一審の判決を取り消し、裁判のやり直しを命じた。イワニコワさんは、無罪になることを確信している。家庭には、夫と生後4カ月の子どもがいる。 
 
 イワニコワさんの事件を契機に、ロシア議会でも、レイプ犯罪では女性の正当防衛権を認めるとする改正法案を準備中だ。 
 
 イワニコワさんは「(16歳の時)最初にレイプされた時に、二度と誰にも辱めを受けないと誓った。これは私にとって名誉に関わることだから」。今でも男性が死亡したことは悔やんでいる。しかし「他に選択肢がなかった。自分の問題は、恐れずに自分を防衛しようとする女性すべてに起きることだと思う」と話している。 
 
 米紙サンフランシスコ・クロニクルによると、ロシアでは昨年、8000人の女性がレイプ(未遂を含む)の被害に遭った。しかし、この数字は氷山の一角で、警察に届けられるのは、レイプ事件の5〜10%程度に過ぎないとみられている。レイプ被害の届出を恥と思ってためらう女性が多いことなども原因だ。この結果、レイプ事件が裁判にまで発展するのは3%にしか過ぎない。 


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