2005年07月24日12時29分掲載
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イラクの現状は「地獄だ」 米軍への憎悪は拡大の一途
「イラクは、どう形容されようとも、テロあるいは反乱が増殖する場所になっている」──。バクダッド大学の生物学教授で、かつ女性人権活動家としても知られ、ナバ・サーレム・ハミドさんがこのほど、米国市民の前で、米英を中心とする多国籍軍の行動にも関わらず、イラク人の生活は、一段と悪化していると報告した。特にイラク国内では、反米感情が高まっており、駐留軍の撤退スケジュールを設定することが、イラク人の不満を解消する道につながると語った。(ベリタ通信=有馬洋行)
ハミドさんは先月米国を訪問、各地でイラクの実情を、米国市民に説明している。米紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューンによると、ハミドさんは、米カリフォルニア州サンディエゴで、150人の米市民を前に講演。2003年3月に米英軍が、イラク攻撃を開始した後、イラクは混沌と破壊に支配されたと強調した。
ハミドさんは、イラクの現況は一言で言えば、「地獄だ」ときっぱり。水道も足りない。電気もなく停電は慢性化している。爆弾テロ、誘拐、それに環境破壊、病気の蔓延。失業者も増加し、イラクには絶望感が広がっているという。
フセイン元大統領下では、イラクは独裁体制下に敷かれ、政治犯の処刑なども恒常的に起きていた。「以前の生活は、(フセイン政権という)残酷な政治体制のため、生活は困難だった」。しかし、フセイン政権が崩壊し、多国籍軍の監督下でイラク再生のプログラムが始まったが、生活実態は今の方が「はるかに悪くなっている」という。
西側メディアが、イラク情勢が好転しつつあると報道していることも批判、「それは真実ではない」と述べた。
ハミドさんは、フセイン元大統領が、中東地域で力を増すようになった背景には、米国の後押しがあったと指摘。1979年にイスラム原理主義国家イランが出現した後、米国はイランへのけん制から、隣国イラクへの軍事的肩入れをしたことはよく知られている。「このことはイラク国民はみんな知っている」とハミドさん。こうした歴史的経緯から、イラク国民の対米感情は複雑化している。
ハミドさんは今、イラクで必要なものは、国民が安全に生活できる保障だという。治安が回復すれば、イラク国民が自力で国を再建できると強調する。
しかし、反乱勢力による暴力が、一段と拡大することを懸念している。外国から米軍と闘うために、多くの過激グループが入り込んできているのも気掛かりだ。「米国への憎悪があちこちに広がっている」とハミドさん。
こうした憎悪を解消する術は、米国が、駐留軍の撤退時期を明確にすることだと指摘、これがイラク国民の心をつかむ道につながると強調する。米国が軍事力重視の立場から転換し、人道援助へ切り替えるべきだとも提言する。イラクでは、依然として、食料、就職口、福利厚生、インフラ整備などが一向に進んでいないからだ。
ハミドさんの二人の子どもは、既にパリとトロントに移住している。しかし、ハミドさんと建築家の夫は、バグダッドで生活している。イラクを離れる気はないという。自らが、イラクを変革していく一員として加わりたいからだ。2年前に女性の権利向上を求める非営利組織「女性のための新しい地平」を組織した。
平和活動家らしく、米軍がイラクに軍事介入しなくとも、結局イラク国民が、独裁政権に対して、勝利しただろうと、語っている。
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