2005年07月31日14時01分掲載
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国境監視に民間ボランティアを活用? 混乱する米政府見解
対テロ戦争と並んで、米国が抱える大きな問題は、移民対策だ。米国と陸続きのメキシコから、毎日のように不法移民が、米国に流れ込んでいる。こうした不法滞在者の数は現在、1200万人にも達している。そんな中で、国境パトロールの最高責任者であるロバート・ボナー関税・国境管理局長(63)が、不法移民の流入監視に民間ボランティア組織の協力を得たいと発言、話題を呼んだ。ブッシュ政権は、民間ボランティアが国境監視に“介入”することには否定的だっただけに、劇的な方針転換と注目されたが──。(ベリタ通信=江口惇)
ボナー氏は今月20日、米国の新聞、通信社とのインタビューで、ことし4月にアリゾナ国境でメキシコからの不法移民の監視に当たった民間ボランティア組織「ミニットマン」による活動を評価。その上で「ミニットマン」のような組織を、政府の国境パトロール隊を支援する組織として活用したい考えを表明した。
「ミニットマン」は、連邦政府の不法移民対策が手ぬるいとして、民間ボランティアが組織した一種の自警団。一部の者は武装しており、また専門的な訓練も受けていないことから、物議を醸した組織だ。ブッシュ大統領も、国境地帯に進出した民間ボランティアを「自警的な活動をしている」と、かねて批判していた。
ボナー氏自身、ことし2月に、「ミニットマン」のような民間団体が、国境監視に当たることについて「普通の人は訓練を受けていない。不法移民が傷つくばかりか、米国市民がけがをする危険性がある」と疑問を呈していた。
しかし、ボナー氏は20日、「国境の監視のために、我々を支援してくれる市民の目や、耳を歓迎する。ミニットマンが責任を持って行動したことを称賛する」と述べた上で、部下に対し、民間ボランティア組織をどう活用できるか検討するよう指示していると語った。
これに対し、関税・国境管理局の上部組織である国土安全保障省は翌21日、声明を発表し、民間ボランティア団体を活用する計画はないと、ボナー発言を公式に否定。「国境監視に当たるのは、国境パトロール隊だけの責務である」と強調した。
この段階で、ボナー発言は「勇み足」として修正されたことになったが、移民対策をめぐるブッシュ政権内の意思疎通の悪さを露呈する結果になった。
米カリフォルニア州サンディエゴでヒスパニック(中南米)系を支援する人権活動家、エンリケ・モロネス氏は、ボナー発言は「まったくの無責任」と批判する。「国境監視は、専門官に任すべきだと主張してきた。ボナー氏は、支援組織が必要だと言っているが、これは民間自警団にライセンスを与えるようなものだ」
全米市民自由連合(ACLU)も「民間人は、国の移民法を執行することはできない」と批判した。
一方、「ミニットマン」の設立者、ジム・ギルクライスト氏は、これまで米政権が、「ミニットマン」らの行動に否定的な反応しか示してこなかった米政府当局が、突然評価する姿勢をみせたことに当惑している。
同氏は、全米で反移民運動が高まりを見せているため、米政権が「ミニットマン」の行動を認知しようとしているのでは、と推測する。しかし、「ミニットマン」は、これまで政府に対し、国境警備の取り締まり要員を増やせと主張してきただけに、政府が要員不足を「ミニットマン」などの民間ボランティアで穴埋めしようとしているのでは、と警戒している。
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