2005年08月25日17時53分掲載
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尾を引くロンドン誤射事件 ブラジルでは移民軽視との声も
7月にロンドンで起きた連続爆破事件に絡み、事件とは無関係のブラジル人男性が警察官に射殺された。当初、ロンドン警察は、男性が不自然に厚着をしており、また突然追跡を振り切って逃げたため、射殺していたと発表していた。しかし、英国メディアは最近、男性はデニムのジャケットを着ており、特に不審を抱かせる格好をしていなかったなどと、誤射事件に関して様々な疑問を呈している。一方、ブラジル人男性の故郷では、誤射事件を契機に外国での労働を再考する声も上がっているという。(ベリタ通信=中邑真輔)
7月7日のロンドンで起きた同時多発テロに続き、21日にも爆弾事件が発生、ロンドン警察は犯人追跡に全力を挙げた。21日の事件に関連した捜査で、ロンドン南部のアパートが犯人の立ち回り先として浮上、私服警官が監視していた。22日朝、そのアパートから、電気技師のジャン・チャールズ・デメネゼスさん(27)が出てきた。
デメネゼスさんは、警察が尾行をする中、地下鉄のストックウエル駅に入った。そこへ武装警官がデメネゼスさんを追い込み、計8発の銃弾を浴びせ、殺害した。7発は頭部に撃ちこまれた。ロンドン警察は、テロ犯に対しては、現場処刑の方針を決めていた。しかし、間もなく、デメネゼスさんは事件に無関係であることがわかった。
英紙オブザーバー(電子版)などは、警察の当初の発表について多くの疑問を呈示。警察は、夏には不自然なコート姿と発表していたが、実際はデニムのジャケット姿だったという。また突然走り出したのも、電車に遅れないために走ったか、あるいは期限切れの学生ビザの件で逃げ出したのかもしれないと指摘している。
このほか、デメネゼスさんは追跡の警官をギャングと勘違いした可能性もあると指摘している。射殺される以前に、ギャングに実際襲われたことがあったという。地下鉄構内で何が起きたかを知る重要証拠は、地下鉄構内に配置された監視カメラだが、警察当局は、多くが作動していなかったと公表している。
デメネゼスさんは、ブラジル南東部のミナスジェライス州ゴンザガ出身。2002年に当初、観光ビザでロンドンに入り、その後学生ビザを取得したが、それは期限切れになっていた。以後電気技師として働いていた。
▽出稼ぎをためらう若者も
ブラジルからの報道では、昨年に一時帰国した際に両親に、「あと3年ぐらい働いて帰国し、自分の牧場を持ちたい」と話していた。
一方、米ナイトリッダー新聞によると、ゴンザガでは事件後、これからも海外で仕事を求めるか、生まれ育った町に残るかで、若者たちの意見が分かれているという。
ゴンザガの人たちの多くは不法就労先として米国を目指す。しかし、入国は厳しい。このためデメネゼスさんのように欧州に向かう人たちも少なくない。欧州なら観光ビザの入手が容易で、入国するのも米国よりは厳しくないからだ。
デメネゼスさんの友人だったという21歳の女性は、外国で働く機会をうかがっていた。しかし、デメネゼスさんの死後、考えをあらためた。「外国では移民ひとりの命など取るに足りないものだ」と分かったからだ。女性は学校に戻って薬学を学び、将来も家族とともにゴンザガで暮して行くことにしたという。
だが、射殺事件の影響は一時的との冷めた見方もある。米マサチューセッツ州で、建設作業員として5年間働いていた男性は、「地元の人たちも、しばらくは海外に出るのを恐れるだろうが、そのうち事件のことを忘れる。ブラジル経済は厳しすぎる」と話している。
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