2005年10月03日11時51分掲載  無料記事
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沖縄/日米安保

【コラム】沖縄・普天間基地の「硫黄島移設」を提言する 海兵隊の全面移転も視野に

  在日米軍再編協議の最大の争点である普天間基地移設問題について、日米両政府の交渉が大詰を迎えている。2005年9月中旬以後、「キャンプシュワブ内陸案」や「辺野古沖浅瀬縮小案」など新たに報道される移設案は、いずれも沖縄県内移設を前提にしている。沖縄県内では8割以上の世論が県内移設に反対である。小泉自民党の総選挙圧勝を受けて、日米両政府は様々な手段を駆使して沖縄県民に県内移設を押し付けようとしている。県外移設こそが世論の一致した意思である。では、県外移設の候補地はあるのか。私は、硫黄島(東京都)に沖縄米海兵隊ともども全面移転すべきだと考えている。(前田丈志) 
 
■米軍再編問題とは何か 
 
 アメリカのグローバル戦略の中で進められる米軍再編の目的は、あくまで米軍を21世紀型の軍隊に生まれ変わらせることにある。装備のハイテク化・情報化・統合化を進め、現在の国際情勢の中で「不安定な弧」と呼ばれる地域へ、迅速な緊急展開を可能とする米軍基地ネットワークの再編を目指している。 
 
 キャンプ座間(神奈川県)への米陸軍第1軍団司令部(ワシントン州)の移転、横田基地(東京都)にミサイル防衛による「日米防空作戦センター」の新設など、在日米軍と自衛隊を一体化した司令部機能強化が図られている。また、米海軍厚木基地の空母艦載機による夜間訓練(NLP)の岩国基地(山口県)への移転など、本土基地負担の強化も含まれている。 
 
 とりわけアジア太平洋地域における、台湾海峡をめぐる対中国戦略や朝鮮半島における対北朝鮮戦略、対テロ戦争の拠点として、沖縄の米軍基地と自衛隊基地強化の動きは見過ごせない重要な問題である。日米軍事同盟強化に反対する広範な全国的世論の構築が望まれている。 
 
■県外移設としての「硫黄島(東京都)移設案」 
 
 日米特別行動委員会(SACO)合意にもとずく辺野古沖への普天間基地移設は、ねばり強い反対運動によって断念寸前までに追い込まれている。これ以上、沖縄県民に米軍基地負担を強いるのは止めるべきである 
 
 私は、国外移設ができない場合は、県外移設として硫黄島(東京都)に沖縄米海兵隊ともども全面移転すべきだと考えている。硫黄島は、東京から1250キロ南方に位置し、広さは22キロ平方メート(品川区とほぼ同じ)。既設の2600メートルの軍用滑走路があり、海上自衛隊硫黄島航空基地に400名の自衛官が常駐している。1990年代に米海軍艦載機の夜間訓練(NLP)が、三宅島民の島ぐるみ反対運動にあい、硫黄島に軍用滑走路を建設して、海上自衛隊と共同使用する形で、厚木基地に所属する米海軍空母の艦載機が訓練に使用している。 
 
 一般民間人は立ち入りできない特殊な島である。住民はいないので騒音や事故被害の心配はない。 
 
 在沖縄海兵隊は、第3海兵遠征軍(1万5000名)を編成する海外唯一の遠征軍である。その中核は、第31海兵遠征隊(MEU2800名規模)と呼ばれる緊急展開部隊であり、普天間基地のヘリ部隊はこの第31海兵遠征隊の航空支援部隊である。普天間基地と第31海兵遠征隊をセットにして硫黄島に移転することで、在沖縄海兵隊はよりコンパクトになった形で緊急展開能力を維持できるはずである。 
 
 硫黄島に港湾設備を整備して高速輸送船を活用する。旧千鳥飛行場にヘリパットを新設することも可能である。現在は海水淡水化装置もあり飲料水の確保も問題ない。福利厚生施設の整備を含めても、海上埋め立て基地や新設地上基地に比べてコストも建設期間も抑えることができる。かねてから、在沖縄海兵隊の訓練をフィリピンやオーストラリアに海外移転する構想があり、ハワイ・硫黄島・グアムと結ぶ兵員のローテーションで、沖縄からの米海兵隊全面撤退も可能になると考えている。 
 
 太平洋戦争末期には、沖縄戦に先立ち日本軍と米海兵隊が戦った激戦地でもあり、2005年6月19日には小泉首相も政府主催の戦没者追悼式に出席するため硫黄島を訪れている。小泉首相は、沖縄の基地負担軽減を唱えるのであれば、東京都にある硫黄島に沖縄の普天間基地を引き受けてイニシアティブを発揮すべきである。 
 
 防衛庁・防衛施設庁も、出先である那覇防衛施設局に問題を押し付けて、ウチナンチュ同士がいがみあうようなことはもう止めて、東京都である硫黄島に移設することで、すべての問題を東京の本庁所轄で解決する気概を見せるべきである。何よりも本土から全国から、沖縄の米軍基地負担をなくす声を、全国的な世論を巻き起こすことだと思う。無関心は加害者に手を貸すことになることを自覚することである。 
 
■やんばるを「世界遺産」に 
 
 硫黄島(東京都)に沖縄米海兵隊ともども全面移転すれば、普天間基地だけでなくキャンプ・シュワブ海兵隊基地も返還できるはずである。沖縄本島やんばるは、世界的に貴重な自然環境の宝庫だ。海にはジュゴンが泳いでいるし、やんばるの森にはヤンバルクイナが生息している。日本自然保護協会は環境庁の自然保護審議会で、やんばるを世界遺産候補地に推薦した。米軍基地があるために日本政府は、ユネスコへの世界遺産登録申請を断念した経緯がある。 
 
 キャンプ・シュワブ海兵隊基地や北部訓練場を返還すれば、やんばるの世界遺産登録が実現する。「兵舎を学校に変えて」平和国家つくりに励んだ中米の非武装国家コスタリカにならって、キャンプ・シュワブ海兵隊基地を環境保護センターや生物多様体研究所、自然環境大学に転用すれば、世界的なエコツーリズムの観光地に発展することも可能だろう。沖縄の大地、海や空を取り戻すことで、平和な島になることを心から願っている。 
 
*まえだ・たけし ジャーナリスト。東京都在住 
 
 
●参考文献 
『在日米軍』梅林宏道著 岩波新書 2002年刊 
追跡在日米軍 http://www.rimpeace.or.jp/ 遠藤洋一・金子ときお・岡本聖哉・田村順玄・橋本純子・はらだ正 
『世界』2004年12月号 特集「米軍再編と自衛隊再編」 
 「在日米軍再編を現場から見る」石川巌 
『論座』2005年9月号 特集「どう向き合うか米軍再編」 
「軍事基地の負担軽減を求める沖縄の論理」宮里政玄・大城立裕・砂川恵伸・山里清・我部政明 
シンポジウム「米軍再編協議に向かう沖縄の論理」2005年9月23日 宮城篤美・我部政明・比嘉良彦・新崎盛暉 
「硫黄島活用案」土屋候保大和市長 1997年5月 
(大和市ホームページ掲載)http://www.city.yamato.kanagawa.jp/kichi/kichitopic-5.htm 
『防衛白書1997』第5章 国民と防衛 (2)空母艦載機の着陸訓練場の確保 
「硫黄島探訪」石井顕勇 http://www.iwojima.jp/ 
「硫黄島協会」http://www.iwo-jima.org/ 
「小笠原新聞社」http://www.ogpress.com/ 
琉球新報社 http://ryukyushimpo.jp/ 
沖縄タイムス社 http://www.okinawatimes.co.jp/ 
『カレンさんコスタリカを語る』カレンさん招へい実行委員会編 草の根出版会 2003年刊 
『沖縄からコスタリカへ 平和憲法とエコツーリズムの旅』内海正三 なんよう文庫 2004年刊 


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