2005年10月06日09時22分掲載
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比海外労働者は祖国のヒーロー、巨額送金が国家財政の柱に
マニラ国際空港に到着し、入国審査へ向かう途中、何とも奇妙な光景にぶつかる。「マブハイ」(歓迎)。4、5人編成のバンドが突然現れ、賑やかな演奏で手荷物を抱えた到着客を出迎える。観光振興に力を入れるアロヨ政権が、「フィリピンへようこそ」と外国人観光客を歓迎していると思いきや、このバンド演奏のターゲットは世界各地で働き、数年ぶりに帰国する、いわゆる「海外就労者」たち。その海外からの巨額送金が、困難な国家財政を下支えする貴重な「外貨収入源」となっているため、彼らの存在を無視できない政府が、海外就労者を「現代のヒーロー(英雄)」とたたえ、バンド演奏で帰国を祝っているのだ。(ベリタ通信=都葉郁夫)
活力を取り戻している東南アジア地域や成長著しい中国などと比べ、フィリピン経済は今ひとつ元気さに欠けている。国庫収入の柱となる天然資源も、多種にわたる大型の製造産業も極めて少ないのが最大の原因だ。
その中、経済低迷期でも外貨収入源としてがんばり、国庫収入と国民生活を支えてきたのが、欧米主要国、日本、シンガポール、香港、それに中東諸国で働く「海外就労者」たちだ。その数は短期滞在者を含めると、常時約300万人に上るともいわれる。
彼らはフィリピンでは英語で「オーバーシーズ・フィリピノ・ワーカーズ」と呼ばれる。その頭文字から「OFW(オー・エフ・ダブリュー)」と呼称される彼らこそ、同国を支える貴重な人材であり、外貨収入をもたらす「先兵」なのだ。彼らが世界の場で働ける最大の武器が、何といってもその優れた英語力。フィリピン国民は「英語を話し、理解できる人口としては、米国に次いで世界で第2位」と自画自賛するほど。
フィリピン中央銀行の最新統計によると、その「先兵」たちから祖国に残る家族らへの送金額が順調に伸びている。今年7月の単月の海外送金総額は8億8500万ドル(約973億5000万円)と、前年同月の7億391万ドルから実に25.7%も増加した。
この結果、今年1−7月の同送金総額も58億ドル(約6380億円)に達し、前年同期の47億ドルから22.1%も増えた。昨年5月の大統領選挙でアロヨ大統領が再選されて以降、数々の不祥事が起きた。長期間にわたって政治空白状態も続き、経済活動も軌道に乗り切れていない中だけに、「現代のヒーロー」たちからの巨額送金は、政府にとっては実にありがたく、かつ、確実な外貨収入源となっている。
この1−7月間にフィリピンを離れ、海外に出たOFW数は59万9196人と、前年同期に比べ5.2%増。内訳はメードや運転手、さらに看護師や技術者らが45万3398人で、前年同期比で3.9%増。残りの14万5798人はタンカーや貨物船などに乗り込む船員たちで、前年同期比で9.4%増。
こうして海外から送られてくる外貨が庶民生活を支え、個人消費を促し、経済を下支えする源にもなっている。中央銀行によると、昨年一年間の海外送金総額は、これまでで最高の85億ドルに達し、同年の国内総生産(GDP)の実に10.5%も占めた。今年の同額がそれを上回るのは確実で、政府は現在、「年間100億ドル」の大台入りも夢ではないと期待している。
問題は、国民のこうしたがんばりに頼るだけで、経済浮揚そして国民福祉のために自らの無策ぶりを露呈しているアロヨ政権のふがいなさだ。公務員の間にまん延する汚職。その象徴が違法賭博業者から献金を受けていたとされる大統領の夫と同夫妻の長男。
大統領自らにも昨年の大統領選挙での不正疑惑が持ち上がっている。アロヨ政権・与党は最近、野党からの弾劾発議は何とか葬ったが、財政改革や経済再建を進めるのに不可欠な政治安定確保は難しいのが現状。OFWを「現代のヒーロー」と祭り上げ、彼らをマニラ国際空港のバンド演奏で出迎える儀式は当分続きそうだ。
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