2005年10月13日15時38分掲載  無料記事
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不法滞在者「バスに乗せるな」 米で差別的な方針に批判の声

 米国で外国人不法滞在者に対する偏見や差別意識が高まっている。米国最大の長距離バス会社グレイハウンドが最近、「不法滞在者と思われる者には、乗車切符を販売するな」という内部通達を出していたのは、その一例だ。米国には、1100万人の不法滞在者がいると推定されている。大半がメキシコなど中南米出身者だ。2001年の9・11同時多発テロ以降、米国内では不法滞在者を追放する気運が芽生えており、ブッシュ政権は、早急に包括的な移民対策を推進する必要性に迫られている。(ベリタ通信=江口惇) 
 
 各種報道を総合すると、グレイハウンドは、職員に対し、不法移民に切符を販売すれば、解雇もありうるとの内部通知を出した。しかし、不法移民かを判断するのは、相手の行動を見て判断せよ、という抽象的なもの。会社側では、「外見で判断することはない。相手の行動で見分ける」と述べ、人種的な偏見に基づいた措置でないことを強調。現在職員に、不法移民を見分け方の社内教育を施しているという。 
 
 しかし、バスの運転手の間からは、乗客が違法滞在者かどうかを、どうやって見分ければいいのか、との批判の声が上がっている。またバスの乗客も人種差別に基づくものと不快感を隠さない。人権保護グループは移民問題は、連邦政府が扱う問題であり、乗客も運ぶのが第一に任務であるバス会社が行うことではない、と反発している。 
 
 グレイハウンドの方針は、米国で広がっている不法移民に対する反感の裏返しとも映る。米国内の主要スペイン語放送局も、一斉にグレイハウンドの方針を大きく伝えている。 
 
▽中南米出身者襲撃事件も 
 
 米国の移民局は、メキシコ人ら不法滞在者について、従来かなりずさんな対応をしてきた。多くの者が、不法入国した後、闇市場で身分証明書などを不正に購入、合法的と装って、労働に従事してきた。移民局に中南米系出身者が多いことも手伝って、追跡調査も緩やかになり、不法移民が増加する一因になった。 
 
 しかし、9・11テロの後事情は一変。テロリストが不法移民に混じってメキシコ国境から流入してくるとの理由で、不法滞在者は、見つけ次第強制送還するとの姿勢に転換した。 
 
 こうした反移民感情に乗って、中南米出身者が嫌がらせを受けたり、事件に巻き込まれる事件も起きている。米南部ジョージア州では9月末、メキシコ出身者が住む移動住宅が襲撃され、2人が死亡、6人が負傷した。このほか車の窓ガラスに銃弾が打ち込まれる事件も起きている。 
 
 一方、ブッシュ大統領は、不法滞在者が、低賃金労働者として、農園、レストランの貴重な働き手である点を重視、期限付きで合法的な労働を認める方針を打ち出している。しかし、米国内には「1100万にいる不法滞在者を全部追い出せ」との強硬意見もあり、対策のとりまとめが遅れているのが実情だ。 
 
 こうした米国内の動きもあって、中南米諸国の政財界、主要マスコミがブッシュ米大統領に対する目は厳しい。ゾグビー社の最新の世論調査では、メキシコの指導者層の77%が、ブッシュ大統領の仕事を評価していない。 


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