2005年10月18日22時36分掲載
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「現金は正義よりも強し」、汚職づけのインドネシア法曹界
インドネシアのマスコミに今、「法廷マフィア」という言葉が頻繁に登場している。つまり、全国のほとんどの裁判所に、汚職に手を染めた法曹関係者たち=マフィア=がはびこり、「正義ではなく現金(賄賂額)」で公判結果が決まっているというのだ。そうした中、被告側弁護士から多額の現金を預かり、判事買収に手を貸そうとした最高裁判所職員5人と被告側弁護士がこのほど、汚職容疑で汚職撲滅委員会に逮捕された。汚職が「法の最も崇高な番人」であるべき最高裁にまで及んでいることに、国民は、いまさらながら大きな衝撃を受けている。(ベリタ通信=都葉郁夫)
有力日刊紙コンパス(電子版)によると、逮捕された最高裁内部の5人は、総務局長のシヌハジ容疑者、民事課のスリヤディ容疑者、同旅行業務担当のポロ・ウルヨ容疑者、そして最高裁協同組合職員のスハルトヨ、シュディ・アフマド両容疑者。また、判事買収を依頼したのは元検事で、今は被告側弁護士のハリニ・ウィヨソ容疑者。
今回の逮捕劇で注目されるのは、ウィヨソ容疑者がスハルト元大統領の異父弟で、実業家のプロボステジョ服役囚(75)の弁護団の一員という点。同服役囚は元大統領の影響力を背景に、中学校教師から各種事業を成功させ、プリブミ(先住のインドネシア人)として一代で財閥の土台を築き上げた人物。
しかし、元大統領辞任後、不正蓄財容疑で逮捕されたほか、現在は1990年代に、約1900億ルピア(約2億1000万円)に上る森林再生資金を別目的に流用した疑惑事件の被告となっている。
これまでの調べで、ウィヨソ容疑者がこの疑惑裁判を有利に運ぼうと暗躍していたことが分かり、アフマド容疑者は「シヌハジ総務局長がハリニ弁護士から現金40万ドル(約4520万円)と8億ルピア(約900万円)を仲介役として受け取り、バギル・マナン最高裁長官に同現金を渡し、裁判に便宜を図ってもらおうとした。スリヤディ容疑者が受け渡し役を務めるはずだった」と供述。多額の現金は汚職撲滅委に押収された。
▽裁判結果はカネ次第の風潮
これに対しバギル長官は「最高裁長官が賄賂を職員を通じて受け取ることなどあり得ない」と、疑惑を即座に否定。別の幹部も「最高裁には厳格な監視体制があり、職員たちの行動を常に見張っている」と言明するとともに、汚職撲滅委の捜査に全面協力する考えを示した。
しかし、スハルト元体制当時から現在に至っても「裁判結果はカネ次第」とされ、裁判所だけでなく検察・警察も「賄賂でどうにでも動く」とされ、地方自治体の不正を監視する司法委員会には今、判事の不正行為への通報が130件も国民から寄せられている。
さらに、非政府組織「インドネシア汚職監視」(ICW)も2002年に公表した報告書で、「警官、検事、裁判所職員、裁判官、弁護士、刑務所職員ら、捜査、裁判、法の執行にかかわる者たちが汚職に手を染め、賄賂で裁判の行方を左右しようとしている」と暴露した。
逆に、元大統領の3男(通称トミー)が関係した汚職事件を担当した最高裁判事は正義感が強く、賄賂提供の誘いに応じなかったため、3男が雇った殺し屋に射殺されてしまった。3男はこの暗殺を指示したことなどで有罪判決を受けて服役中。
今回の最高裁職員たちの逮捕劇は、ICW報告書の内容を裏付けるもの。それだけに、汚職撲滅委が法曹界の腐敗体質にどこまでメスを入れ、全身にまわっているウミを出し、健康体に戻すのかに関心が集まっている。
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