2005年10月29日10時08分掲載
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アフリカのライオンが絶滅の危機に、マサイ族による家畜保護のための殺害が原因か
アフリカ東部に生息する百獣の王ライオンが、絶滅の危機に瀕している。長年ライオンと共存生活を維持してきた遊牧民マサイ族が、自分たちの家畜を守るために、有毒の農薬などを使って殺しているからだという。アフリカではかつて密猟者が象牙を取るため暗躍し、象が絶滅の危機に瀕したことがあったが、米国の動物学者は、ライオンも同じような運命をたどる危険性があると警告している。(ベリタ通信=江口惇)
米紙サンフランシスコ・クロニクルによると、ライオンの危機を警告しているのは、米カリフォルニア大学バークレー校の動物学者ローレンス・フランク氏。同氏は、ライオンが多数生息するアフリカ東部にあるケニアのマサイマラ動物保護区、それに隣国のタンザニアのセレンゲティ国立公園でライオンの実態調査をした。
フランク氏が調査の対象にしたのは、約9万3000平方メートルの広大な大地。同氏は、マサイマラ動物保護区では、かなりの野生ライオンが見つかると期待した。しかし、期待に反してライオンがほとんど姿を消していた。
「広大な大地にライオンが多くいると思ったが、ライオンの姿はなかった。70年代以降に起きた象の密猟事件に匹敵する問題だ」と警鐘を鳴らすフランク氏。同氏は、特にライオンが手厚く保護されているマサイマラ動物保護区からライオンが姿を消したのは、重大な危機だと憂慮している。
アフリカの草原地帯に住むライオンの数は、盛時には、100万頭が生息していた。しかし、その後生息数は年々減少。20年前にアフリカに生息していたライオンは10万〜20万頭と推定された。今回の調査を基に推定すると、現在のライオン数は、1万6000から4万頭に激減していることになるという。
アフリカでは、70年代後半から密猟者が象牙を狙って象を大規模に殺害し、大きな国際問題になったが、フランク氏は、その時と同じように危機的な状況だと指摘する。
▽ライオン殺しに農薬使用
マサイ族はケニアやタンザニアにまたがって住む部族。長身でジャンプ力に優れ、勇猛さで知られる。マサイ族は歴史的に、家畜は神からマサイ族だけに与えられたものと信じてきたとされる。
このため他の部族が持つ家畜を盗まれたものだと考え、他部族との間で家畜争奪のための武力衝突が絶えなかった。こうした事情から、マサイ族の若者が妻をめとるためには、敵を殺した経験を持つことが条件になった。この経験のない者は、ライオンと戦って殺し、勇敢さを証明する必要があった。近年家畜戦争が大幅に減ったが、ライオンを殺すという伝統は根強く残っているという。
フランク氏が、こうしたライオン狩りの伝統以上に問題視しているのが、マサイ族が罠や、農薬を使ってライオンを殺し始めたことだ。マサイ族の生活にも貨幣経済の波が押し寄せており、牛などの家畜は換金用として貴重な財産だ。ライオンに襲われて家畜を失うのは大きな痛手だ。このため安く手に入る農薬などを多用するようになった。
アフリカでは、サファリなどを売り物にした外国人用の観光ロッジ(ホテル)が人気を集めている。マサイ族の中には、ロッジで働くため、ロッジの近くに家畜を連れて定住している者もいるという。
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