2005年10月29日11時20分掲載
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タイ報道界が首相に「全面戦争」布告 言論の自由守ると挑戦状
タイの報道界がついに、豪腕政治家のタクシン首相に宣戦を布告、「報道・言論の自由」を死守するため、徹底的に闘うとの挑戦状を突き付けた。発端は、首相が時評討論番組の名物司会者を相手取り、名誉毀損(きそん)を理由に約13億円にも上る賠償支払いを求める訴えを起こしたこと。報道界は、首相の訴えを「マスコミ封じ」を狙った“暴挙”として激しく反発、このほど開いた決起集会で一致団結して首相と対決する姿勢を打ち出した。政治上の最高責任者を敵に回すという事態に、国民は今、近く始まる裁判を含め、前代未聞の「全面戦争」の成り行きに大きな関心を寄せている。(ベリタ通信=都葉郁夫)
タイの空の玄関、バンコクのドンムアン国際空港からほど近い瀟洒(しょうしゃ)なホテルの会議場。ここに、同国を代表する日刊紙などの関係者たちが続々と詰め掛け、会議場は異様な熱気に包まれた。
英字紙ネーションなどによると、同会議場でこのほど開かれた「タイ報道評議会」(PCT)の臨時総会に姿を見せたのは、主要日刊紙タイ・ラット、デーリー・ニューズ、ネオ・ナー、英字紙バンコク・ポスト、ネーションなどの幹部、論説委員やコラムニスト、そしてタクシン首相から訴えられた経済紙プーチャットカンの創刊者たち。印刷メディアのうち、実に31社から100人近い関係者が勢ぞろいした。
一躍“時の人”となった政治時評番組の司会者ソンティ・リムトンクン氏があいさつに立ち、開口一番、「(報道の自由をめぐり)今ほど恐ろしい時はない」と、タクシン首相のなりふり構わぬマスコミ攻勢に強い危機感をあらわにした。辛口の政治時評で人気のあるソンティ氏は9月9日放映の番組中、首相が仏教界の人事に介入したことを取り上げて「越権行為」と批判、これが基で首相から高額の損害賠償支払いを求められている。
▽「暗雲振り払え」と団結
続いて登壇した日刊紙の代表たちも、「今こそ一致団結し、タクシン首相が報道界にもたらした暗雲を振り払わねばならない」と主張、ソンティ発言に同調するとともに、直面する危機の打開には報道界の結束が不可欠などと相次いで訴え、会場はあたかも「首相糾弾の場」と化した。
総会は報道界の団結を前提に、(1)首相の高額賠償請求に対応するための「報道基金」の設立(2)名誉毀損関係法の改正要求(3)報道の自由確保と言論弾圧への抗議継続──を満場一致で決め、首相と全面対決していく姿勢を鮮明に打ち出した。
これに対し、タクシン首相は今月11日、高僧が行った首相批判の説教内容を報じた、ソンティ氏創刊の日刊紙プーチャットカンの編集長らを名誉毀損で訴え、報道界からの「宣戦布告」に真っ向から受けて立つ姿勢をあらためて示した。今回の損害賠償請求額は5億バーツ(約13億9500万円)。
また、首相を全面擁護するウィサヌ副首相も、「名誉を傷つけられれば、首相であっても個人として裁判を通して名誉を守る権利を有している」と発言。さらに、首相側の弁護士は今回の訴えについて、「首相に対する悪意に満ちた攻撃を排除するため」と説明した。
タイ報道界とタクシン首相の互いに一歩も譲らぬ対決は泥沼化するとともに、今後は法廷の場で主張を戦わせ、雌雄を決することになる。しかし、いずれが勝者あるいは敗者になっても、両者間に生じた深い亀裂を埋めるのは難しく、関係修復への道は極めて険しいものとなりそうだ。
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