2005年10月30日10時46分掲載
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説法・日本変革の道「医療改革は健康のすすめから」 「仏教経済塾」の安原和雄氏
厚生労働省が今月発表した「医療制度構造改革試案」は従来どおりの負担増加が中心だった。これは「改革」の名には値しない、と「仏教経済塾」を主宰する安原和雄氏は批判する。いのちの尊さを説く仏教によれば、まず健康人を増やすのが本当の改革だという。また人間のみならず多様ないのちの共生を大切にする立場から、自衛隊の非武装「地球救援隊」への全面改組を提唱する。安原氏が浄土宗の僧侶講習会で行った「説法」に耳を傾けてみよう。(ベリタ通信)
●説法・日本変革への道 安原和雄
仏教経済学の視点からどのような日本変革論が可能だろうか。2005年10月26、7両日の浄土宗教化高等講習会で私は、「いのちの尊重と仏教経済学――地球環境時代をどう生きるか」と題して講演した。以下は「説法・日本変革への道」(要約)である。
▽仏教の社会的責任(BSR=Buddhist Social Responsibility)
最近、企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)が厳しく問われるようになった。仏教が社会的存在である以上、企業同様に社会的責任が問われるべきである。私はCSRにヒントを得てBSRという新語をつくった。衆生済度の思想を生かして人助け、世直しのために貢献することが仏教の社会的責任とはいえないか。
▽すでに破産した現代経済学
仏教経済学は現代経済学(赤字財政による経済拡大策をすすめるケインズ経済学など)とどう異なるのか。地球環境の汚染・破壊によって、地球上の人間・動植物も含めた生きとし生けるものすべての「いのち」の生存基盤が破局に直面している。最近頻発する異常気象、自然大災害などはその具体的な現れである。
破局をもたらしたものは、現代経済思想であり、それに基づく経済成長路線であった。現代経済学はすでに破産したともいえる。だから地球環境時代にふさわしい新しい経済思想を構築しなければならない。それが仏教経済思想である。
▽仏教経済学の特質はいのち・知足・利他・持続性
仏教経済学の第一の特質は、いのちの尊重である。欲望について仏教経済学は釈迦が説いた知足(足るを知るこころ)を重視する。これも仏教経済学の特色である。
経済学はその理論体系の中でどういう人間観を想定しているかが重要である。既存の現代経済学は利己主義、すなわち自己利益の最大化こそ合理的と考える人間像を想定しているが、仏教経済学は利他主義、すなわち「世のため人のため」にも尽くしたいという本性が備わっている人間像を視野に入れている。
地球環境時代のキーワードである持続性、すなわち持続可能な「発展」(=Sustainable Development=1992年の国連主催の第1回地球サミットで打ち出された)はどうか。
現代経済学は、持続不可能な「成長」を重視する。だから経済成長至上主義=石油浪費経済をむしろ奨励し、それに歯止めをかけることができない。
一方、持続可能な発展、すなわち持続性を重視する点が仏教経済学の特色である。だから脱「経済成長主義」=脱「石油浪費経済」のすすめを説く。この立場は「ゼロ成長でも十分」と考える。
▽「いただきます」「もったいない」「お陰様で」の復活・普及を
日本の仏教的文化に根ざした「いただきます」「もったいない」「お陰様で」を日常用語として復活・普及させることを提唱したい。これは知足の精神の日常的な実践であり、自然と人間、人間同士の共生を自覚することである。そしていのち尊重、節約、感謝のこころを日常の暮らしの中で大切にしようと言いたいのである。
▽「健康のすすめ」の医療改革案
厚生労働省が05年10月19日、公表した「医療制度構造改革試案」は従来通り負担の増加が中心となっている。こういう医療改革は改革の名に値しない。「健康のすすめ」を柱とする改革案は次の通りである。
*高齢者は原則無料
*健康奨励策の導入=1年間に1度も医者にかからなかった者は、医療保険料の一部返還請求の権利を持つことなど。
*「いのち・食・健康」教育の重視=「いのちと食と健康」の密接な相互関連について家庭や学校で小学生から教育する。
*働き方の改革=労働時間の短縮、就業機会の保障があって初めて暮らしに安心とゆとりを確保できる。ところが現実は企業の人減らし、残業増大、労働強化を背景にサラリーマンの間に病気や過労死が増えている。この現状を改善しなければ、健康人を増やすことはできない。
*自己責任の原則を導入=糖尿病など生活習慣病は、自己負担を5割に引き上げる。生活習慣病は仏教でいう精進を忘れて、生活習慣の改善を怠ったのだから、自己責任の原則を適用する必要がある。
▽自衛隊全面改組による非武装「地球救援隊」(仮称)の創設を
既存の現代経済学、すなわち「貪欲の経済学」は「戦争は富の増進に役立つ」として武力行使を容認する。しかし仏教経済学、すなわち「知足の経済学」は、人間・自然を含む多様ないのちの共生を希求する立場から武力行使を含む暴力を拒否する。この仏教経済学から自衛隊の戦力なき組織への全面改組という方向が必然的に導き出されてくる。
地球救援隊構想の概要(理念、目標、達成手段)は以下のようである。
*地球のいのち・自然を守り、生かすために平和憲法9条の理念(戦争の放棄と戦力の不保持)を具体化する構想であること。
*自衛隊の全面改組を前提とする構想だから、自衛隊の装備、予算、人員、訓練、教育などの根本的な質の改革を進めること。
装備は人道救助・支援に必要なヘリコプター、輸送航空機、輸送船、食料、医薬品、建設資材・機械類などに切り替える。特に台風、地震、津波など大規模災害では陸路交通網が寸断され、空路による救助・支援のための「人道ヘリコプター」を大量保有する。
特に教育は大切で、いのちの尊重、利他精神の涵養、人権感覚の錬磨に重点を置き、「いのちの安全保障」を誇りをもって担える人材を育成する。
*「説法・日本変革への道」の全文は下記で読めます。
http://kyasuhara.blog14.fc2.com/
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