2005年11月04日15時23分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200511041523325

メキシコに試験なし無料の大学 「失業者製造工場」の批判も

 中米メキシコに入学試験がなく、かつ無料の大学がある。首都メキシコ市にあるメキシコ市立自治大学で、入学者は希望者の中から抽選で選ばれる。2006年のメキシコ大統領選の最有力候補アンドレス・ロペスオブラドール前メキシコ市長が、在任中に発足させた。低所得層の若者たちが入学しているが、通常の大学システムでは異端であるのも事実。このため関係者の間から学生の質もわからず、卒業しても就職するのは困難ゆえに「失業者製造工場だ」との批判の声も出ている。(ベリタ通信=江口惇) 
 
 米紙プレス・エンタープライズによると、同大学は01年4月創立。学生数は大学院を含め現在約5700人。進学を希望するメキシコ市出身の高校生は、高校の卒業証明書、住民票を提出するだけ。普通の大学が必要とする成績証明書は提出しなくてよい。面接もない。ただし、入学希望者は公証人の立会いの下、抽選で選ばれる。秋期コースは10月半ばからスタートしている。 
 
 今期の応募者は5000人で、うち1150人が抽選で合格を勝ち取った。抽選漏れの学生は次回に挑戦できる。 
 
 メキシコ市立自治大学は、四つのキャンパスがあるが、うち一つは、元刑務所だった。建物は、ペンキの塗り替えが行なわれておらず、往時の囚人の落書きが残っている。 
 
 無料大学の推進役であったアンドレス・ロペスオブラドール氏は、次回大統領選に中道左派の革命民主党(PRD)立候補している。農民、老人、女性など「貧者・弱者優先」を公約に掲げている。メキシコは人口1億人の半数が貧困層といいわれ、根強い人気を保っている。一時、土地接収をめぐる問題で、検察当局から起訴され出馬資格を失う恐れがあったが、検察が起訴を取り下げ、危機を乗り切った。 
 
 選挙戦では、低所得者層を受け入れるメキシコ市立自治大学の存在は、同氏にとって、選挙民にアピールできる材料の一つだ。 
 
▽大衆迎合主義の批判も 
 
 しかし、無料の大学については各方面から批判の声もある。抽選で入学者を決めているため、学生の質をいぶかる関係者もいる。対立政党の元市議は「メキシコ市立自治大学は、将来の失業者を生み出す工場でマルクス・レーニン主義の産物」と批判。また無料大学は財政を逼迫させると反発している。 
 
 米テキサス州オースチンのテキサス大学のピーター・ワード教授は無料大学について「とんでもない大衆迎合主義。特に学生を抽選で選ぶのは、まったく理解できない」 
 
 しかし、無料大学で学ぶ学生からは賞賛の声が上がっている。8歳の娘を持つヒセラ・ガルシア・コンスタンティノさん(26)は「ここにいる学生は多くが、他の大学を拒否されている。こうしたチャンスを無駄にできない」と語る。現在、政治学などを学んでいる。卒業後は、公務員になり、メキシコ市の環境を向上させる仕事をしたいという。 
 
 メキシコ市立自治大学の責任者マヌエル・ペレス・ロチャさんは「大学の方針は、大学を必要としている人を支援すること。それこそが民主主義の核心」と語っている。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。