2005年11月24日20時30分掲載  無料記事
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比の保有ジェット戦闘機がゼロに 空の防衛能力に不安

 大小7000の島々、面積約30万平方キロを持つフィリピン。この国の領空が今、全くの無防備という前代未聞の状態に陥っている。今年10月、37機あったジェット戦闘機F5が、耐用年数を大幅に過ぎたのを機に全機が“引退”し、その後、国家防衛予算の不足から代替機の購入もできないまま、「戦闘機ゼロ」状態が続いているからだ。一時は東南アジア地域の「先進国」とまでいわれたが、特に1980年代以降、歴代政権の機能不全、経済力の弱さ、そして政治家・国民間の国家意識の欠如などが絡み合い、国力は低下の一途。ついには域内第2の人口大国(約8200万人)が、自力では領空さえ守れなくなってしまった。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 今年10月1日、ルソン島マニラ首都圏の北方、パンパンガ州にあるバサ空軍基地は悲壮ともいえる異様な空気に包まれた。 
 
 それもそのはずで、この日を境に、フィリピン空軍には祖国の領空を守り続けてきたジェット戦闘機がすべて姿を消すことになったからだ。 
 
 同空軍には、ベトナム戦争中の1965年から30年以上にもわたり、米軍の使い古したF5戦闘機が提供され、同機種を中心とするジェット戦闘機部隊が編成され、東西冷戦中の防空、国内の反政府武装勢力の抑止などに当たっていた。 
 
 通常、F5戦闘機の寿命(耐用年数)は15年とされるが、同部隊で使用されていたF5機はいずれもその寿命をはるかに過ぎ、たとえ訓練用に使うにしても墜落事故をいつ起こしてもおかしくないほど老朽化していた。 
 
 こうした厳しい現状を前に、さしものアロヨ政権も全F5機の廃棄を決めざるを得なくなり、バサ空軍基地での引退式典となった。 
 
▽パイロットは2000人 
 
 その結果、フィリピン空軍からはジェット戦闘機で編成する飛行隊は姿を消し、残ったのは攻撃用ヘリコプターMG520(17機)、大型輸送機C130(2機)、軽爆撃機のOV10(14機)、それに大統領専用機など計120機だけとなった。 
 
 国際社会への参入や、経済開発ではフィリピンに後塵を拝したベトナムでもミグ戦闘機をはじめ作戦機として約200機を所有、隣国インドネシアも最新に近いF16戦闘機10機に加え、最近ではロシアからスホイ27戦闘機を導入し、防空体制を強化している。 
 一方、今回の戦闘機部隊の消滅により、空軍内で起きているのがパイロットたちの除隊と民間航空会社への大量鞍替え現象だ。 
 
 空軍には現在、約2000人のパイロットがいるが、同軍で最も花形とされる戦闘機部隊がなくなったことで、腕におぼえのある優秀なパイロットの中には、早くも空軍に見切りをつける者たちが出始めている。 
 
 空軍当局者によると、今年初めから9月末現在で、除隊を申請したパイロットは既に24人に上り、同数は今後さらに増え、最終的には70人ほどに達するとみられる。昨年1年間の除隊パイロット数は23人だった。 
 
 パイロット訓練を受けた空軍飛行士は、8年間の兵役義務期間が過ぎれば、本人の申し入れにより、除隊が可能になる。 
 
 除隊したパイロットの転職先は、フィリピン航空など地元航空会社を筆頭に、中東や他のアジア諸国などの民間航空。月額給与も空軍時に受け取っていた額の4−10倍となる6万−18万ペソ(約11万4000円−34万2000円)に上り、この給与差も除隊に拍車を掛けているという。 
 
 こうした事態に対し、アロヨ政権は防空体制の整備、新たな戦闘機の導入計画などを一切示していない。戦闘機部隊の消滅とともに、優秀なパイロットたちの空軍離れはさらに加速すると懸念されている。フィリピン領空の「丸裸」状態が解消するのはまだ先のようだ。 


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