2005年12月26日12時57分掲載  無料記事
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出稼ぎメードを酷使、性的虐待も シンガポールのもう一つの顔

 都市国家シンガポール(人口430万人)では日曜日ともなると、近隣諸国からの出稼ぎ労働者たちが街のあちこちに集い、母国の料理を楽しみ談笑する光景がみられる。その多くが、シンガポール人家庭に入り、家事や育児を手伝うメードたち。しかし、中には、雇い主の許しをもらえず、こうした週1度の「息抜き」に出て来られない、気の毒なメードも多い。それ以上に、虐待同然の扱いを続けるメードも少なくなく、8日には、メードにセクハラを働いた同国人男性がムチ打ち3回と禁固4月の有罪判決を受けた。(ベリタ通信=都葉郁夫) 
 
 有罪を言い渡されたのは、チュン・ユーチン被告(43)。判決によると、同被告は今年8月、アパートで同居する母親が雇い入れたばかりのインドネシア人メード(28)を、毎晩のように自室へ呼び、マッサージをするよう強要。 
 
 チュン被告はさらに、マッサージを受けている間、メードが嫌がるのも聞かず、その胸や腰などに手を回すなどのセクハラ行為を繰り返したとされる。我慢の限度を超えたため、メードが警察にチュン被告をセクハラ行為で訴え出たという。 
 
 今回のケースにとどまらず、シンガポールでは出稼ぎ労働者、中でもメードに対する不当な待遇、虐待行為が起きているとの批判が相次ぎ、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」(本部ニューヨーク)はこのほど、シンガポール人家庭で働くメードたちが受けている人権侵害実態を明らかにした報告を公表した。 
 
 それによると、シンガポールで働く外国人メードは現在、約15万人にも達し、そのほとんどが隣国インドネシア、フィリピン、そしてスリランカからより高い収入を求めてやって来た出稼ぎ労働者たちだ。 
 
 しかし、そのメードたちが今、人権侵害という厳しい状況に直面している。雇い主の中には週1度の休日を認めないどころか、毎日の食事を満足に与えなかったり、セクハラを含む肉体的虐待を続け、さらには家で監禁状態に置くケースまであるという。 
 
 「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」のケネス・ロス代表は、メードたちにシンガポールの雇用法が適用されず、その結果、雇用主が法律に縛られていないことが最大の問題点と指摘、その上で、「メードの中には雇用時の負債を返済するため、何カ月も無給で、しかも休日なしで長時間労働を強いられているケースもみられる」と、悲惨な実態を明らかにした。 
 
 さらにロス代表は、「こうした人権侵害状況を生んでいる最大の原因は、シンガポール政府がメード保護に全く手をつけていないこと。この国のメード保護状況は、週休、最低賃金、出産休暇、ボーナス支給を定めている香港よりはるかに遅れている」と厳しく批判した。 
 
 同代表によると、シンガポールでは1999年以来、少なくとも147人のメードが事故や自殺で命を落とし、自ら命を絶ったケースのほとんどは、働いていた高層アパートからの飛び降りだったという。 
 
 当然のこと、シンガポールのウン・エンヘン人材開発相は「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」の批判に対し、「同団体の報告は事態をとてつもなく大げさに伝えている」と猛反発するとともに、「外国からの労働者は外国人労働者雇用法で十分に保護されており、批判は全く当たらない」と反論している。 
 
 ウン人材開発相はさらに、同雇用法では雇用主に適切な休暇、食事、安全な職場環境、住宅、速やかな賃金支払いを実行するよう義務づけているとも強調、最後には「外国人労働者たちは自国に比べて、よりよい環境があるためシンガポールへ働きに来ているのだ」と発言、同国の労働力不足を助けている外国人労働者への感謝の念どころか、批判への開き直りとも受け取れる姿勢をみせている。 


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