2005年12月30日14時57分掲載  無料記事
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女性ではなく買春客に厳しい姿勢 異例の超党派での法案支援

 売春は「被害者のいない犯罪」とうそぶく人もいるが、米国では、売春に対して厳しい措置を講じる方向に向かっている。最近、米下院議会は、426対0という満場一致で売春宿経営者や、ポン引き、それに顧客の取り締りを強化する法案を可決した。同法案は、売春に従事する女性を“犠牲者”と位置付け、売春を管理する者や、買春する側に対し、厳しい“お灸”をすえるのを目的にしている。同法案は、教会関係者、フェミニスト(女性人権主張者)、保守系人権活動家らから、異例の超党派の支援を受けている。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
 法案の推進役になったのは、デボラ・プライス下院議員(共和党、オハイオ州選出)ら。州や地方の捜査当局に対し、売春管理者や顧客らを捜査・起訴するための予算支援を行なうほか、売春を強要された犠牲者への基金作りにも協力する 
 
 法案は、今後上院でも審議される必要があるが、従来の法律と違い、買春を行なう一般客にも厳しい姿勢をみせているのが特徴。米公共ラジオNPRは、買春客を厳しく処断するのは「新思考」と評論している。 
 
 同法案には、カリフォルニア州サンフランシスコにある非営利団体「SAGE」(代表ノーマ・ホタリングさん)らが協力している。SAGE代表のホタリングさんは、元売春婦。1992年に人身売買の犠牲になった女性や子どもの社会復帰などを支援するSAGEを創設。95年からは、サンフランシスコ市検察庁と協力し、買春し逮捕された男性に対し、リハビリの学校を開設している。 
 
 売春をめぐっては、多くの州で売春を強要された女性や年少者を保護する法律が制定もしくは検討されている。米ミシガン州のシカゴ警察本部のウェブサイトには、買春を行い逮捕された者の写真が、名前、年齢、逮捕日時などとともに一般公開されている。 
 
 米国では2000年に、売春を強要され、米国に送られてきた外国人女性や未成年者を保護する法律を制定。一時滞在ビザなどを発給している。しかし、この法律は、国境を超えた人身売買を対象にしているため、SAGEなどが、米国内で起きた人身売買の犠牲者の保護を求める法律制定を呼びかけてきた。 
 
 BPニュース(電子版)によると、ある宗教関係者は「長年女性や、子どもが現代版の奴隷所有者の下で、性的奴隷として扱われてきた。これまで捜査当局は、あまりに女性だけの責任にしてきた」と指摘している。 
 
 米紙サンフランシスコ・クロニクルの報道では、サンフランシスコには売春を行なう未成年が3万人いるとされ、中には9歳のものがいるという。また売春行為で逮捕される未成年者は毎年、100人以上に及んでいる。 
 
 米国では売春は違法であり、カジノ公認として知られるラスベガスを擁するネバダ州の一部が、売春を法的に認められているだけ。しかし、売春組織は「マッサージ・パーラー」などの名称を使い、巧みに当局の目を逃れているのが実情だ。 
 
 売春管理者や顧客などへの取り締まりは近年厳しくなっているものの、売春を行なう女性への偏見もあり、「売春婦だから」という理由で一方的に、女性だけが犯罪視されることも依然起きている。 
 
 米紙ワシントン・ポストによると、米司法省の中には、売春という違法行為に従事する女性を一律に「犠牲者」とのする考え方には異論を唱えるものもいるという。 


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