2006年01月13日14時46分掲載  無料記事
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【IPSコラム】高利益のからくり ウォルマート商法の倫理を問う マーク・ソマー

 米帝国がイラクでつまずき、その象徴的な巨大企業が破産を避けるためにがむしゃらに労働者の首を切っている時に、世界最大の企業であるウォルマートは商業的な優位に向けてまい進し続けている。そのなりふり構わぬビジネスモデルは、世界の小売業の標準になっている。しかし、ウォルマートのやり方は、その将来とそのビジネスモデルの将来をむしばんでいるかもしれない。(IPSコラムニスト・サービス=ベリタ通信) 
 
 ウォルマートが40年前、アーカンソーの田舎から始まったということを考えると、その世界的な優位の規模は想像しがたい。2004年の売上は2900億ドルで、グローバル・フォーチュン500のトップで、BP、エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェルを抜く。従業員は170万人。そのうち40万人が米国外(ほとんどが中国)で、米国の消費者のために低価格の衣料品、電気製品、その他の品物を製造している。小売業のアナリストであるトム・ルベルは「もしウォルマートが揺らぐようなことがあると、国家の安全保障の問題となる可能性がある。彼らはあらゆるものに手を付けている」。 
 
 低価格で大衆向け商業の支配は、ほかの小売業者が競争力を維持するために価格を下げざるを得ないため、いわゆる「ウォルマート効果」を通じて、インフレを抑制し、米国経済にとって有益であるという人もいる。ウォルマートの生産性は業者のねたみとなっている。 
 
 しかし、ウォルマートの成功のもたらしたものは、従業員、その周りの地域社会、供給者、競争相手、そこで買い物をする人たちを超えて、一般市民にますます明らかになっている。米国、そして世界最大の私的雇用者としてウォルマートは、米国の労働賃金の基準を設定している。それは最低水準である。2003年の賃金分析によると、ウォルマートのレジ係りは時給8ドル以下で、週平均29時間働いた。年収では1万2000ドルで、夫婦子供一人の家庭での連邦の貧困ラインより1000ドル少ない。 
 
 会社は日常的に従業員に8時間で終えられるより多くの仕事を与え、サービス残業させ、残業代の支払いを免れている。従業員の退職率は生産性と同じように並外れている。ウォルマートの従業員の半分は毎年、辞めている。 
 
 従業員は性差別、人種差別について苦情を申し立てている。ウォルマートの160万人の現在と元の女性従業員が起こした米国最大の集団訴訟では、会社が女性従業員に対して、同程度の仕事で、男性従業員より少ない給料を支払い、昇進では常に女性と肌の色による差別がある、と訴えた。 
 
 最低水準の賃金に加え、ウォルマートは従業員に手当てをほとんど支払わない。半数は賃金が余りに少ないので、けして手厚いとは言えない政府補助を受ける資格があるほどだ。いわゆる「ウォルマート税」で、米国の納税者にとって15億ドルと推定される医療費、食料スタンプなどである。政府とその貧弱な福祉制度に組織的に敵対的なのにかかわらず、ウォルマートは手当てを支払いたくないために、そうした福祉に頼っている。ウォルマートの店を誘致しようとする地域社会が提供する税制上の優遇措置とともに、納税者はウォルマートの高利益と低賃金のために、大幅に資金援助していることになる。 
 
 ウォルマートのやり方はここ数年、草根の根の反対運動とともに、多くの訴訟と悪評を招くことになった。会社は売上の増加を続けているが、明らかに頭を悩ましている。最近、「作戦司令室」と称するものを立ち上げた。レーガン、ブッシュ、ケリーの選挙運動陣営から引き抜いたトップクラスの政治戦略家からなり、公共心のある雇用者として売り込んでいる。 
 
 しかし、多くの消費者とエコノミストの一部は、非常に違ったビジネスのやり方に魅せられている。いわゆる「反ウォルマート」のコストコは、低価格と給料のよさ、多くの手当て、地域サービスのバランスを心掛けて成功している小売チェーンの競争相手である。その投資は士気、従業員の残留率、顧客の支持としてはね返っている。 
 
 520億ドルの売上があるコストコは、安売り小売業で最も裕福な顧客を引き付けている。従業員の離職率はウォルマートより5倍少なく、ウォルマートより40%高い賃金、医療手当ては従業員の90%をカバーしており、会社へ忠誠心のある労働力を作り上げた。ウォルマートより20年新しいが、コストコは宣伝に一切、金を使わずに、成長を続けている。 
 
 創立者で最高経営責任者のジム・シネガルの年収は35万ドルで、店舗従業員の給料の12倍に当たるが、ウォルマートの戦略を採用すればもっと儲かるはずと言うウォールストリートの意見をやんわりと退ける。「ウォールストリートは、今と次の火曜日の間に儲けるというビジネスをしている。われわれがしているビジネスは、今から50年後も仕事をしているという組織をつくろうとしている。いい賃金を払い、一緒に働き続けようとすることは大変いいビジネスだ」と彼は言う。 
 
 小売業界のアナリスト、ジャック・ウェランは「市場に頼って生きれば、市場によって死ぬ」とは言う。「ある時期に、顧客も従業員も投資家も冷酷な計算をして、ウォルマートとかかわりあうのは、もう利益にならないという結論を出すかもしれない」。 
 
*マーク・ソマー 米国のMainstream Media Projectの創設者。 


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