2006年01月17日01時38分掲載
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米係官はなぜ後ろから撃ったのか メキシコが密入国者射殺に抗議
米カリフォルニア州南部のサンイシドロで昨年12月、両国国境地帯に設置されている分離フェンスをくぐり、米国に不法入国したメキシコ人青年が、米国境パトロール隊の係官に背中を銃で撃たれ死亡する事件が起きた。メキシコのメディアは、「なぜ彼は後ろから撃たれたのか」などと発砲事件を批判、メキシコ政府も米政府に対し事実関係の解明を要請するなど、外交問題に発展している。(ベリタ通信=有馬洋行)
サンイシドロには、国際検問所が置かれ、陸続きのメキシコへの国境の玄関口になっている。しかし、メキシコ人らが、周辺の国境地帯を使って不法入国を繰り返しているため、サンイシドロ付近には、二重の分離フェンスが築かれている。
米紙ロサンゼル・タイムズなどによると、昨年12月30日夜、メキシコ側の国境の町ティファナに住むギジェルモ・マルティネス・ロドリゲスさん(18)が最初のフェンスをくぐり抜け米国に不法入国。もう一つのフェンスを乗り越えようといたところを、パトロール中の米係官に発見された。
米当局の発表では、米係官に発見されたマルティネスさんは、地面の石を拾って、係官に投げつけるような格好をした。このため、係官は身に危険が迫ったと感じて発砲した。マルティネスさんはそのままメキシコ側に逃げ込んだという。
当時数人の仲間が付近にいたとされ、彼らが負傷したマルティネスさんを車で病院に運んだ。
銃弾は右胸に命中しており、翌31日に死亡した。銃は後ろから撃たれたものだった。当時、米係官が銃を向けたために、マルティネスさんが逃げようとしたところを後ろから撃たれた可能性もある。
サンイシドロに近い米サンディエゴにあるメキシコ領事館は、背後から撃たれたことを憂慮。「われわれは力の行使を非難する。権力の乱用だ」と批判した。メキシコ政府からの抗議を受け、米国側でも事件の調査を行なう考えだが、報告が出るまでに1カ月はかかる見込み。
銃を発射した係官は、国境警備8年の経験を持っているという。発砲後、マルティネスさんがメキシコ領内に逃げ込んだため、命中していたかどうか知らなかったと話しているが、事件後、仕事を外れている。
マルティネスさんは、ティファナでは、洗車の仕事をしていた。妻と小さな子どもがいて生活が苦しいため、米国に入国し建設現場で働くつもりだったらしい。妻は夫の死についてコメントしていないが、マルティネスさんの母親は、ティファナの通信社に対し、「彼は動物ではない。なぜ彼の命を奪ったのか」と批判している。
メキシコでは、米下院が昨年、メキシコからの不法移民の取り締まりを厳しくする法案を採択してから、米国への反発が強まっている。今回の事件は、こうした反発にさらに拍車をかける形になっている。
サンイシドロ付近は、メキシコからの不法入国ルートになっており、国境を超えるメキシコ人を支援するため、米係官めがけて投石のほか、火炎瓶などが投げられることもしばしば起きている。
メキシコの一部の新聞は、マルティネスさんが、不法移民を米国に送り込む仕事をしていたと報道している。しかし、遺族はこれを否定している。
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