2006年01月18日05時57分掲載  無料記事
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米で違法滞在中の高校生が歯の無痛治療中に急死 ヒラリー議員が母の入国問題で奔走

  米東部ニューヨーク州ロングアイランドで昨年暮れ、南米コロンビア出身の高校生が、歯の治療中に死亡した。悲報を聞き、コロンビアに住む母親が米国を訪れようとしたが、高校生がビザなしの不法滞在だったことがわかり、米国は母親の入国を一時拒否した。しかし、米国内のスペイン語テレビ局などがこの問題を取り上げ、波紋が広がった。こうした中、ニューヨーク州選出のヒラリー・クリントン上院議員(民主党)が、人道上問題があるとして奔走した結果、今月初め、母親は、事故発生から2週間後にようやくニューヨーク入りを果たした。(ベリタ通信=エレナ吉村) 
 
 米国では、歯医者恐怖症の患者のために無痛治療を宣伝する医者も目立つ。あまり事故は聞かれないが、昨年12月21日、ロングアイランドの歯科医院で、治療を受けていた高校生ルイス・カルロス・モラ君(17)が急死した。 
 
 モラ君は同日、奥歯の「親知らず」の2本を抜く予定だった。抜歯の前に、鎮痛剤の静脈注射を受けた。歯科医のジョセフ・コモ氏(38)が奥歯を抜いた直後、モラ君の呼吸が荒くなった。このため歯科医院は救急車の出動を要請。モラ君は病院に搬送されたが、間もなく死亡した。 
 
 米国の英語メディアは、このニュースにあまり関心を寄せていない。しかし米国内に住む中南米系(ヒスパニック)の人々を主な視聴者とするスペイン語放送局などにとっては大きな関心を呼ぶニュース。息子の突然の死によって悲嘆にくれる母親アナさんの苦悩を紹介した。 
 
 死亡した高校生は3年前米国を訪れ、親類宅から米国の高校に通っていた。ことし6月には、高校卒業の予定だった。どのような形で米国に入国したのかは不明だが、死亡したときには、合法的に滞在できるビザを持っていなかった。 
 
▽母はヒラリー議員に感謝 
 
 このため、コロンビアの首都ボゴタにある米国大使館は、モラ君が不法滞在者であるとの理由で、母親の米国へのビザ発給を拒否。関係者は、人道上の問題だと、拒否を強く批判した。 
 
 2006年に上院議員の改選を迎えるヒラリー議員もこの事実を知り、仲介に乗り出し、ボゴタの米国大使館に掛け合い、母親へのビザ発給を実現させた。 
 
 コロンビアでは、歯の治療で、静脈注射を行なったりする無痛治療は行なわれていないため、モラ君の突然の死に驚いている。米国では、静脈注射は、処置に時間がかかる根管治療などの際に、使用されるという。 
 
 ニューヨーク入りしたアナさんは、「入国に奔走してくれたヒラリー議員らに感謝したい」と述べた。また遺体を米国で荼毘にふした後、遺灰をコロンビアに持ち帰ると、涙ながらに語った。 
 
 モラ君はサッカー好きのスポーツ少年で、健康だったという。それだけの歯の治療中にあっけなく死亡してしまったことに衝撃を受けている。アナさんは、現在は後始末に追われ、歯科医院に対し、損害賠償を求めるかどうかは、わからないと話している。 
 
 一方、地元警察の話によると、歯科医院は、これまでに医療過誤事件を起こしたことはないという。米国の統計では、無痛治療の静脈注射では、35万人中1人の割合で、死亡している。今のところ、無痛治療とモラ君の死亡との因果関係はわかっていない。 


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