2006年01月23日15時12分掲載
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米で子ども5人殺害の母親をめぐり再審始まる
幼い子ども5人を殺害し、終身刑で服役していた母親が、同じ容疑で再び裁判にかけられるという珍現象が、米テキサス州で起きている。この母親は、犯行時の「精神異常」を理由に無罪を主張したが、陪審はこれを認めず、有罪評決を下した。ところがその後、検察側の有力証人である精神科医が、陪審員をミスリードするような証言をしていたことがわかり、裁判をやり直すという異例に事態になった。(ベリタ通信=苅田保)
この母親はテキサス州ヒューストン出身のアンドレア・エーツ被告(41)。2001年6月、夫が仕事に出かけた後、生後6カ月から7歳までの子ども5人を、自宅のバスタブにつけて溺死させた。同被告は殺害後、自ら警察に通報、逮捕された。
各種報道を総合すると、エーツ被告は末の子を産んだ後から、うつ病状態だったという。裁判では、検察側は殺害された子ども5人のうち、3人についてのみ立件した。
弁護側は、被告は当時正常な状態になかったとして無罪を主張。しかし、検察側の有力証人として出廷したカリフォルニア州に住む精神科医パーク・ディエツさんは、エーツ被告が、犯行時善悪の判断ができる状態にあると、これを真っ向から否定する証言をした。
▽人気ドラマの筋書きが心証に影響
さらにディエツさんは、被告が、米NBC放送の人気法廷ドラマ「Law&Order」の筋書きをまねて犯行に及んだ可能性があるとの見方を示した。
ディエツさんによると、事件の数日前に放映されたドラマでは、子どもを溺死させた母親が、精神異常を理由に裁判で無罪になるというものだったという。さらにエーツ被告は「Law&Order」の熱心なファンだったとも証言した。
この一連の証言で、陪審員がエーツ被告に対し、心証を悪くした可能性は否定できない。
ところが、ディエツさんはこれは勘違いだったと、有罪評決の出た後、“告白”した。「Law&Order」は、母親が子どもを溺死させるようなエピソードは制作も放映もしてなかった。
しかし有罪評決は覆えすのは難しく、2002年3月にエーツ被告は終身刑を宣告され、刑務所へ。
いったん有罪の評決の出た事件を元に戻すのには時間がかかる。2005年1月にテキサス州高裁は、精神科医の誤った証言で陪審員がミスリードされた可能性があるとして、有罪を破棄。同年11月までに破棄判決が確定し、再審が決まった。
エーツ被告の再審初公判は今月9日に開始された、同被告は再び「精神異常」を理由に無罪を主張した。再審で無罪になるかは不明だ。
ジョージ・パーンハム弁護士は、地元テレビ局に取材に対し、「被告は子どもを溺死させたとき、うつ病状態であり、精神異常の状態だった。被告には罰ではなく、治療が必要だ」と指摘、再び刑務所に戻すべきではないと主張している。
エーツ被告は今月、再審理を受けるため、服役していた刑務所から出され、別の刑務所の精神病棟に収容されている。
エーツ被告は事件後、夫とは離婚した。しかし、前夫は1カ月に一度は被告の面会に訪れていたという。
前夫は、これ以上エーツ被告に苦しみを与える必要はないと指摘。再び裁判をやるために、納税者の多額の金を費やすほど馬鹿げたことはないとしている。
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