2006年01月26日15時54分掲載
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賛否両派が実力行使、暴力事件も 米国で妊娠中絶是非めぐり
米国では、妊娠中絶に反対するか、賛成するかで、国論が大きく分かれている。双方が暴力で主張を通そうとするケースも目立ち、中絶を行なう診療所が襲撃され、医師が殺害される事件も起きている。そうした中、キリスト教団体が昨年暮から、米カリフォルニア州サンフラシスコの地下鉄で、「中絶反対」の広告を掲示したため、中絶容認派らが強く反発、広告がはがされるなどの被害が続出している。(ベリタ通信=江口惇)
ローマ・カトリック教会の団体は昨年のクリスマスの前から、サンフランシスコ内を走る地下鉄BARTに、中絶に反対する広告を出した。車内に280枚、駅構内には大きめの広告48枚を掲示した。今月末までの予定で、広告掲載料としては約4万3200ドル(約500万円)を払った。
米国では、1973年に連邦最高裁が、「ロウ対ウエード事件」をめぐり、人工妊娠中絶を条件付きで求める判決を出し、以後中絶が合憲となった。しかし、生命の尊さを主張する保守派やキリスト教原理主義者が、最高裁の合憲判決に不満を表明。このため、共和党保守派などが、最高裁の交代時期を狙って、保守派の判事を送り込み、判例となった「ロウ対ウエード事件」を将来的に覆す計画ともいわれている。
今回の広告は二種類あるが、いずれも最高裁判例を真っ向から批判。「心臓が鼓動を打ち、腕や足が現われ、すべての器官がそろい、胎児が親指をしゃぶる後になってから、(中絶が)選択できると、最高裁は言っている」などの批判の文言が並び、二種類の広告とも「中絶:われわれは行き過ぎたのでは」とのフレーズで結んでいる。
▽広告の「検閲」はできないと反論
これに対し、中絶容認派が強く反発。米紙サンフランシスコ・クロニクル(電子版)によると、車内や構内の広告が、相次いではがされたり、ポスター上に書き込みが加えられるなどの、被害が続出している。
ある活動家は、米クロニクル紙に対し、「BARTがこのような行為を許可したのは信じがたい」と語った。中絶容認派は、キリスト教団体の中絶反対の広告掲示などに反対し、大掛かりな抗議行進を行なっている。
このほか、中絶容認派からは、広告掲載を認めたBART当局に抗議が殺到。こうした意見広告が事前に明らかにされていれば、中絶容認派もこれに反対する意見広告を出せたと話している。
これに対し、BART当局者は、広告の内容の「検閲」に当たるようなことはできないと主張。広告掲載は合衆国修正憲法1条の「表現の自由」で認められたもので、広告掲載は拒否できないとしている。
広告の被害は、中絶容認派の仕業とみられるが、これに対しては、「表現の自由」を暴力的に封殺しようとするものとの、逆に批判の声が上がっている。
米紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューンは社説で、サンフランシスコで起きている意見広告の破壊行為は、表現の自由を求めた60年代の理想主義の精神に反するもの、と批判している。
しかし、クロニクル紙のコラムニスト、ジョン・キャロル記者は、政治的な意図の基づいた破壊行為も、裏を返せば表現の自由の一部ではないか、と問題提起している。
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