2006年02月01日15時47分掲載
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比で不正暴露のジャーナリスト殺害続く 捜査当局は事件解明に消極的
東南アジア諸国中では比較的民主化が進んでいるフィリピンで今、汚職などの不正を調査、暴露したジャーナリストが銃などで殺される事件が依然後を絶たない。2005年の犠牲者は10人にも達した。04年の犠牲者数13人よりは減少したものの、10人というこの数は、戦時下にあるイラクでの同数35人に次いで世界第2位の“不名誉”な記録。しかし、肝心の捜査当局からは犯人や背後関係を徹底追及する意気込みは全く感じられず、ほとんどの事件は解決への手掛かりもつかめないまま「迷宮入り」している。フィリピンで政治家や軍・警察関係者らの不正を暴くジャーナリストは、常に命がけの取材を強いられている。(ベリタ通信=都葉郁夫)
ブリュッセルに本部を置く「国際ジャーナリスト連盟」(IFJ)はこのほど、05年に世界で取材活動中に命を落としたジャーナリストが150人に上ったとする報告書を発表した。
このうち取材が原因で、政治勢力や犯罪組織などにより意図的に殺害された記者、カメラマンらは89人に達した。国別でみると、犠牲者が最も多いのは、イラク、フィリピンに次いで、コロンビア、メキシコ、ハイチの各9人、パキスタン6人、スリランカ4人などとなっている。
一方、残りの61人は取材活動中に、不慮の事故などで命を落とした者たちで、61人中48人は昨年12月6日、イランの首都テヘランで起きた軍輸送機墜落事故で死亡したイラン人記者らだった。
今回の報告書でIFJが強く指摘しているのが、ジャーナリスト受難国の各政府とも事件を重大視せず、犯人の割り出し・追及そして真相の究明をほとんど行っていないこと。このため犯人が捕まったケースは極めて少なく、ジャーナリストらの口封じなどを狙った犯罪の繰り返しを許す結果を招いていると批判している。
さらにIFJは、捜査当局内にはびこる汚職体質、司法当局の未熟さ、そしてジャーナリスト殺害事件への政治家の無関心も事件撲滅への大きな傷害になっていると警告している。
フィリピンでも昨年3月、ミンダナオ地方中部スルタンクダラット州で女性ジャーナリストが自宅で息子と食事中に襲われ、頭部を撃たれて即死したほか、同年末の11、12月にも地方で汚職問題を追及していた地方紙記者とラジオ局レポーターの各1人が相次いで殺された。
このうち女性ジャーナリストは、同州の農務省幹部の不正を追及する記事を掲載したことで命を狙われたとみられ、実行犯として3人が逮捕、起訴されているが、3人に殺害を命じたとされる首謀者は今も捕まっていない。
フィリピンではジャーナリストだけでなく、農地解放などの地域活動や、賃上げ要求などの労働運動に取り組んでいる左派系活動家を標的とした暗殺事件も多発。こうしたケースでは国軍部隊の関与疑惑が浮上しているが、犯人が捕まることはない。
また、同国では新型けん銃の輸入・販売広告が日刊紙上に掲載されるほか、銃器の所持がほぼ野放し状態。このため市民の間のささいな争いでも銃が使われ、殺人に発展する例は珍しくない。
こうした銃社会の現状を改善するため、政府は公称90万丁という銃器の管理、さらに野放し銃の回収強化などの必要性を強調している。しかし、掛け声だけが先行し、効果的な取り締まりは期待できない。フィリピンではジャーナリストだけでなく国民も、日常的に銃社会の危険にさらされている。
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