2006年03月15日22時03分掲載
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前例のない「父親にならない権利」 裁判所が認めるのは望み薄
コンピューター・プログラマーの米国人男性はある日、ガールフレンドから妊娠していると通告され、頭を抱えた。子どもはまだ持ちたくなかった。結局女性は子どもを生んだ。男性は、養育費を拒否したため、女性によって裁判所に訴えられた。結果は男性の敗訴だった。しかし、男性はこれに反発し、男性にも女性に子どもを産ませない権利があると主張してこのほど、裁判所に逆に訴えを起こした。ただし、ほとんど勝ち目のない訴えで、本人もそれを自覚、問題を提起するための訴訟だと言い切っている。(ベリタ通信=苅田保)
この男性は、ミシガン州のマシュー・ドゥベイさん(25)。男性の権利向上を主張している活動団体「男のためのナショナル・センター」が、ドゥベイさんの代理となって訴えた。同団体は、男性が望まない出産については養育など責任を拒否できるなどと10年近く、活動を続けている。
米シカゴ・トリビューンなどによると、ドゥベイさんが当時のガールフレンドから妊娠を告げられたのは2004年秋。これには驚いた。なぜなら女性は避妊を施しており、妊娠はあり得ないとドゥベイさんに告げていたからだ。ドゥベイさんもまだ子どもを持ちたくなかった。
しかし、女性は中絶を拒否し、結局女の子が生まれた。養育費を求めて女性は裁判所に訴えを起こした。その結果、ドゥベイさんは毎月500ドル(約5万8000円)の養育費の支払いを裁判所から命じられた。
ドゥベイさんには、女性にだまされたとの思いが残り、こうした男性の支援を行っている「男のためのナショナル・センター」のメンバーになった。同団体は、今回の訴えについて、「男性にも女性と同様に、子どもを持つかどうかを決定する権利が与えられるべきだ」と主張している。
“父親にならない権利”を主張する裁判は前例がないが、現行の判例上からは、ドゥベイさんたちの意見が通る可能性は小さいとみられている。
なぜなら法律の世界では、子どもを産むかどうかは女性の「選択」に委ねられているからだ。米連邦最高裁は1973年に、女性には中絶の権利があると判示している。また子どもが経済支援を受ける権利に関しても、父親がどう反論しようとも、覆すのは困難になっている。
全米女性法律センターのマルシア・グリーンバーガー代表は、「米国には首尾一貫した方針が存在する。一方の相手がだましたりしようと、子どもが生まれたからには、二人の親が責任を持つ必要がある」
また妊娠しないという女性の言葉を信用したのは、男性の責任だと指摘。妊娠がいやなら、性行為をあきらめるか、自ら避妊をする方法があったとはず、と述べている。
一方、人工授精をめぐる幾つかの訴訟では、男性の父親にならない権利が、裁判所から認定されている。女性が保存していた受精卵を使って妊娠を望んだものの、男性はこれに反対。結局裁判所は男性の言い分を認める判断を示している。
シカゴ・ケント・カレッジのキャサリン・バーカー教授は、「父親にならない権利は、人工受精では認められているが、通常の伝統的な妊娠のケースでは認められていない。これはやや奇妙な感じもする」と、話している。
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