2006年03月20日13時08分掲載  無料記事
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「イスラム教徒殺害への報復」と車で暴走 イラン出身の青年、米で9人負傷させる

  成績優秀だったイラン出身の若者がなぜ突然過激な行動に走ったのか。今月3日白昼、米南東部のノースカロライナ州チャペルヒルにあるノースカロライナ大学構内で、同大の卒業生がSUV(多目的スポーツ車)に乗って、学生で混雑していた広場に突入、9人に軽傷を負わせる事件を起こした。殺人罪容疑で逮捕されたこの若者は「世界中のイスラム教徒の死あるいは殺害に対する報復だ」と警察官に供述した。今のところ、犯行の動機が組織的テロと直接結びつくのかはっきりしないが、対テロ戦争最中に起きた事件だけに波紋を広げている。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
 逮捕されたのは、イスラム教徒でもあるモハメド・レザ・タヘリアザル容疑者(22)。ノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)で心理学と哲学を学び、2005年12月に卒業したばかりだった。今月3日正午前、図書館や学生食堂などが並ぶ広場周辺で、レンタルしたSUVで学生らをひき殺そうとしたとされる。 
 
 各種報道を総合すると、同容疑者は、事件を起こした後、自ら警察に通報し、間もなく逮捕された。警察は組織的なテロの疑いもあるとして、爆弾処理班を出動させ、タヘリザル容疑者のアパートを捜索した。裁判で有罪になれば最長で100年の禁固刑になるといわれる。 
 
 6日に逮捕後初めて裁判所の尋問を受けたタヘリザル容疑者は、判事に対し「創造者であり慈悲深いアラーの意志について学ぶ機会を与えてくれたことを感謝する」と述べた。また逮捕直後、警察官に対し「世界中で多くの人が戦争で殺された。今度殺されるのは米国民だ」と供述したことを認めた。 
 
 同容疑者は、この後も冷静に計画的に殺害しようと考えていたとの供述を繰り返した。判事が弁護人は使わないのかと質すと、「自分で弁護する」と述べた。しかし、判事の裁量で“相談役”として国選弁護人を指定した。 
 
▽学生が事件めぐり集会 
 
 保釈金は550万ドル(約6億3000万円)に設定されたため、当面自由の身になる可能性は小さい。 
 
 タヘリザル容疑者は学業優秀で、西欧の歴史にも精通していたとされる。知人はおとなしい性格だった容疑者が、突然過激な行動に走ったことに驚いている。事件の後、構内では一部の保守系の学生が「彼の行動はテロだ」として集会を開き、これに反発する学生との白熱した討論が展開された。 
 
 タヘリザル容疑者の学んだUNCでは最近、反イスラムの動きが起きていた。学内の学生新聞デーリー・タールヒール紙は昨年9月、「すべてのアラブ人は、空港の手前で裸の捜索を受けるべきだ」といった趣旨のコラムを掲載、物議を醸した。 
 
 また同紙はことし2月、デンマークの新聞社が掲載したイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を題材にして、独自の漫画を掲載していた。これに対し、イスラム教徒の学生が新聞社オフィス前で座り込みの抗議行動を行う事態になっていた。 
 
 タヘリザル容疑者もUNC内でのこうした動きを知っていたとみられ、これらが犯行のきっかけになった可能性もある。仮に容疑者が組織的にテロ行為を計画していれば、連邦犯罪になるため、連邦捜査局(FBI)も捜査に乗り出している。しかし、地元警察は、単独犯の可能性が大きいとみているようだ。 


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