2006年03月26日11時37分掲載
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日中・広報文化交流最前線
食事とお酒がとりもつ隣国のよしみ 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)
●付き合いに重要な食事とお酒
中国では古来から宴席が外交面で重要な役割を果たしていた。お酒を一緒に酌み交わして、友好を固める。そのための特別な器も作られていた。河南省博物院で陳列されている器は、二つの盃が合体しており、異なる部族の代表が、この器を使って同時にお酒を飲み干すことで、「固めの儀式」としたそうである。これが数千年前からの中国の智恵である。
●会食文化:日本流と中国流の違い
遣唐使の時代、日本の外交使節も唐王朝から宴席に招かれた由である。今の中国でも、もてなし、宴会の習慣は健在である。中国の報道によれば、中国の政府予算の約7%が飲食・宴会に消費されているそうである。
中国の宴会、会食に参加して、その特徴として観察される点:
(1)中国での宴会は、夕方6時か6時半位に始まり、夜8時から9時には終わる。
(2)丸テーブルで大きなお皿に中華料理を盛りつけてくるスタイルの宴席が多いが、多くの量が注文されることが多い。残してしまうと、もったいないと感じる。尚、「もったいない」は、中国人学生に小生からいつも重要な日本語として説明している。
(3)北京では多くの日本食レストランが開店しており(その数は百は優に超え、二百とも三百とも言われる)、中国人で賑わっている。日本食文化は、北京で最も歓迎されている外国食文化である。北京市内の日本食レストランでは、例えば、68元(約950円)、98元(約1370円)で、食べ放題・飲み放題のサービスをしている。和食レストランでコース料理を頼むと、これまた量が多い。存分に食べたいと希望する中国人顧客のニーズが強いようだ。
(4)お酒は白酒と呼ばれる透明の蒸留酒がよく飲まれる。アルコール度数38度とか53度の強い酒である。日本に行った中国人は、「日本酒は度数が低く、大したことはない」と言う。中国での「干杯(乾杯)!」は、本当に一気に杯を空にする。ヨーグルト飲料などを飲むことで胃を守り、酔っぱらうことを防げる。これは筆者も実践している中国の智恵である。乾杯する時には、相手の杯よりも自分の杯を低くすることで敬意を表すのが中国での礼儀である。
(5)「割り勘」は少なく、客人をご馳走してもてなすのはホストに期待された役割である。(そのための予算措置が必要。)宴会は「一期一会」ではなく、次にはおごられた方がおごり返すか、或いはまたおごられるか、であり、一種の貸し借り関係が続いていく。
(6)共稼ぎの中国人は皆忙しいし(所謂「奥さん」(=専業主婦)がそもそも少ない)、外食産業が発達しており、欧米ほどは自宅に客を招き手作りのごちそうでもてなすことは少ないようだ。若い中国人女性には、家で料理をあまり作らない、という人も多いようだ。
●会食文化:時代を経ての変化
大皿を真ん中に置いて、沢山の人で料理を食べる、という中国の現在の宴席の形式は、遊牧民族の食生活の影響がある。漢の時代には、今の日本の旅館で使われているような一人一人用の御膳に、各自の食器を置いて食べていたらしい。この形式の変化は、発見されている陶磁器の変遷からも伺える。つまり元の時代の陶磁器には、以前にはなかったような大きな食器皿が見つかるということである。
中国の会食文化も歴史的に変化してきた。今後生活水準の向上やライフスタイルの変化などに応じて、更に変化していくだろう。たとえば専業主婦が増えれば、家庭料理文化も見直されるかもしれない。ダイエット志向も増えるかもしれない。
●日本の会食文化は、中国人に受け入れられるか?
中国人が日本に来ると、食事面でどう感じるのか気になる。量が少なく質素に感じるかもしれない。しかし、日本人の食文化における美意識、絶妙な味覚は理解してもらいたい。筆者は、訪日する機会のある中国人に対して、茶道の客をもてなす精神も含め日本の食文化とその背景を説明するようにしている。日本大使館広報文化センターでは、日本食文化、日本酒文化についての講演会も開催した。日本側の多くの組織は、バブル崩壊後、接待費もさほど無く、贅沢もできなくなった。筆者の友人(日本人)は、来日した中国人をポケットマネーでもてなす際には、安くて品数の多い居酒屋などが、庶民の暮らしを覗けるし、結構喜ばれると教えてくれた。(つづく)
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。)
*井出敬二(いで・けいじ):1980年外務省入省。OECD日本政府代表部一等書記官、在ロシア日本大使館広報文化センター所長・参事官(報道担当)、外務省アジア大洋州局地域政策課長、経済局開発途上地域課長を経て、2004年2月より在中国日本大使館公使・広報文化センター所長(報道担当)。昨年12月に出版した『中国のマスコミとの付き合い方』(日本僑報社)は注目を集めている。
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