2006年04月06日17時45分掲載
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不法移民めぐり共和党内部で分裂 問われるブッシュ氏の指導力
米国にいる約1200万人の不法移民の処遇をめぐって、ブッシュ大統領を支える与党共和党が、大きく分裂している。大統領は「地下」に隠れている不法移民に一時的な労働ビザを与え、「合法労働者」とする移民法改正案を提案している。ところが不法移民締め出しを叫ぶ共和党議員から一時的な労働ビザは「実質的な恩赦」として反発の声が上がり、党内部の亀裂が表面化している。(ベリタ通信=有馬洋行)
ブッシュ大統領は2004年1月に移民法改正案を提案しているが、昨年後半から議会の審議が白熱してきた。米議会は現在、共和党が上下両院とも多数を占めている。
ブッシュ提案は、大規模農場やレストラン、ホテル、建設現場などの底辺で低賃金の下、不法に働く移民に、一時的な労働ビザを与えるのが狙いだ。
今回の不法移民改正案は、テロ対策の一環として身元を特定する狙いもある。それと同時に共和党の支持基盤であるビジネス界から寄せられてきた、移民労働者がいなくなれば、事業に支障をきたすとの不安の声にこたえる意味もある。
しかし、その身分は、法的には一時滞在扱いとなる。ブッシュ政権は1986年にレーガン政権下で行われたような不法移民に対する恩赦ではないと主張。その証拠に永住の権利である「グリーンカード」を申請して許可されない限り、米国滞在は許されない。
不法移民の多くはメキシコ出身者で、全体の55%を占めている。1200万人のうち、実際に不法に働いているのは700万人と推定されている。不法移民は現在でも、メキシコ国境などから流れ込んでいる。テロ対策上からも、不法移民対策は、ブッシュ政権の大きな課題になっている。
米下院は昨年12月、不法移民に一時的な労働ビザを与えるとのブッシュ提案を無視。逆に不法移民を犯罪者として追放することを狙った法案を賛成多数で採択した。最近、ロサンゼルスやシカゴなどで、ヒスパニックの労働者や学生たちの大規模デモを行っているのは、下院の反移民法案に対する反発が原因の一つだ。
下院案は、メキシコと米国国境3200キロのうち、1100キロにわたってフェンスの構築を提案するなど国境の警備強化を打ち出している。また教会関係者らが、助けを求めてきた不法移民をかくまった場合、処罰されるとの規定も盛り込んでいる。
これに対し、上院司法委員会はことし3月、ブッシュ提案に沿って一時的な労働ビザを与える法案を採択した。彼らが米国に長年定着し、家を所有し、その子どもらが学校に通っていることなどを考慮した結果だ。また永住権や市民権の取得の道も閉ざしていないのが特徴だ。
このため下院共和党議員らが、上院は不法移民に「恩赦」を与えようとしていると反発、波紋が広がった。
上院司法委の法案は上院本会議で審議され、採択された場合は、下院でも同種の法案が採択されているため、上下両院協議会で法案の一本化が行われる。しかし、共和党内部で意見が割れているため、果たしてどのような法案になるのか予測がつかない状況になっている。
ブッシュ大統領はイラク戦争の混迷に加え、昨年の超大型ハリケーン「カトリーナ」の対応のまずさや、最高裁判事人事での混乱、さらには米国民に対する盗聴問題などで支持率が急落。イラク開戦当時80%台だった支持率は、現在37%まで落ち込んでいる。
ことし暮には議会中間選挙が実施されるが、共和党の苦戦が予想されている。このためブッシュ政権が移民問題でつまづけば、共和党がヒスパニック票を失うことになると懸念する声もあがっている。
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