2006年04月21日01時46分掲載  無料記事
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全面中絶禁止に州民から批判の声も レイプ、近親相姦もだめ、米サウスダコタ州

  米中部のサウスダコタ州議会がことし2月に採択した人工妊娠中絶をほぼ全面禁止する法案に対し、中絶容認派が巻き返しに出ている。草の根団体や人権団体がボランティアを募り、サウスダコタ州でこの法案の是非について直接に国民の声を聞く住民投票を呼び掛けているからだ。投票実現のためには州民から一定数の署名を集める必要があるが、保守的な地盤といわれるサウスダコタ州で、意外と法案に批判的な意見が強いという。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
 同州の法案は、「生命は受胎で始る」と規定し、母体に危険がある場合を除き、人工妊娠中絶を禁止した。レイプや近親相姦による妊娠も、原則的に中絶は禁止される。仮に医師が中絶手術を施した場合は、女性患者は罪に問われないが、医師は、最高で5年の禁固刑に処される。 
 
 最高裁が1973年に「ロウ対ウェイド判決」で、女性の妊娠中絶を合憲として以来、中絶を認めない保守層が、73年判例を覆すため、長年にわたって運動を続けてきた。2001年に誕生し、政権2期目のブッシュ大統領は、選挙基盤の保守層の意を汲み取り、73年判例を覆すことを意識した最高裁判事の人事を進めている。 
 
■米最高裁の保守化の流れ受け 
 
 これまでに保守派のロバート最高裁長官とアリート判事が就任した。最高裁は9人の裁判官で構成され、保守とリベラルに二分されているため、保守派の判事を増やすことが73年判例を覆すための条件となる。 
 
 サウスダコタ州議会の法案は、こうした最高裁の保守化の流れを意識した動きだ。中絶を全面禁止にする法案を採択すれば、中絶容認派が裁判所に訴訟を起こすと考えた。そうした事態になれば、最終的にこの問題は最高裁で審理され、遂には73年判例が覆されるとの読みだ。 
 
 ところが、中絶容認派は、この手に乗らず、直ちに訴訟を起こすことを避け、住民投票で州民の民意を直接聞く道を選んだ。中絶容認派が3月に行った州民の世論調査では、57%が法案に否定的だという。 
 
 各種報道によると、住民投票は6月19日までに1万6728人が請願書に署名すれば成立し、ことし11月の連邦議会選挙と一緒に行われる。ラウンズ州知事は3月に州議会が採択した法案に署名し、法案は7月1日に発効する予定だが、住民投票実施が決まれば、州議会の法案は、11月の投票の結果まで、“凍結”されることになる。 
 
 中絶容認派の連合組織「健康家族のためのサウスダコタ・キャンペーン」が主体となり、地方の町や大学に400人のボランティアを派遣し、活発な署名活動を続けている。 
 
 サウスダコタ州は、保守的な地盤のため署名は厳しいとの観測もあったが、開始後2週間で既に必要な署名数の3分の1が集まったという。このため住民投票成立を確実視している。 
 
 同州のある住民は保守支持としながらも、州議会が採択した法案は、「家族の間の事柄への州議員の介入だ」と不快感を表明している。また38歳の子どもを持つ母親は、米紙ロサンゼルス・タイムズに対し「レイプや近親相姦の場合は、女性に選択させるべきだ」と指摘。当初は署名を渋っていたが、最終的にはサインしたという。 
 
 中絶容認派は仮に11月の住民投票で、反対票が集まらなかった場合には、訴訟を起こし、裁判闘争に持ち込むことを検討している。 


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