2006年05月01日01時42分掲載  無料記事
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夫が送還され家族離散の悲劇に 米大手工場の一斉摘発で

 メキシコ出身のパオラ・オラダスさん(28)はある日突然、地獄の底に落とされた。米国で不法滞在していた夫が、米入国管理当局の一斉摘発で逮捕され、メキシコに強制送還されてしまったからだ。全米26州にわたって実施された今回の大掛かりな不法移民摘発では、一日だけで不法移民1187人が逮捕され、逮捕者数としては記録的なものになった。しかし、この影響で、大黒柱の夫を失った家族への影響は大きい。6歳以下の3人の子どもを抱え、米国に住んでいるオラダスさんも、収入が途絶え、今後の生活がどうなるのかと途方に暮れている。(ベリタ通信=苅田保) 
 
 米入国管理当局が摘発に動いたのは今月19日。捜査対象は、多数の不法移民を雇用していた木製の荷運び台製造の大手「北米IFCOシステム」で、全米の工場など40カ所を一斉摘発し、不法移民を逮捕した。不法移民と知りながら雇用していた工場のマネジャー7人も移民法違反に問われる。「北米IFCOシステム」はオランダの複合企業「IFCOシステム」の傘下にある。 
 
 米紙ロサンゼルス・タイムズによると、米カリフォルニア州リバーサイド郡のIFCOの工場で働いていたオラダスさんの夫、アルフレッド・ガルシアさん(29)は19日、一緒に働いていた28人の不法労働者とともに逮捕され、直ちにメキシコの強制送還された。 
 
 オラダスさん夫婦には3人の子どもがあるが、いずれも米国で生まれたため米国籍を取得している。米国は出生主義を取り、憲法上の規定で、米国で生まれれば自動的に米国人になる。しかし、不法移民の両親は、子どもが成人に達するまでは合法移民になることはできない。 
 
 夫のガルシアさんがメキシコから不法入国したのは8年前で、IFCOの工場で働き、週350ドルの収入を得ていた。メキシコの強制送還された今、ガルシアさんは、米国境の近いメキシコ領のティフアナ市に滞在している。妻のオラダスさんとは最近も電話で話した。 
 
 米国に取り残されたオラダスさん母子4人は、家賃650ドルのアパートに暮らしているが、次の支払いの期限は5月。「仕事もお金もない」と不安を隠せないオラダスさん。 
 
 米議会では目下、1200万人といわれる不法移民対策に取り組んでいるが、こうした両親が不法移民で、子どもが米国籍といういびつな家族構成も手伝って、抜本的な移民法改正の実現に苦慮している。 
 
 入国管理当局は、オラダスさんのような家族離散の悲劇を知ったとしても、これをどうかする立場にはない。米国に違法に滞在していた以上、法的には対応のしようがないからだ。 
 
 一方、今回の「北米IFCOシステム」への一斉摘発は、社員の内部告発がきっかけ。入国管理局によると、同社は不法移民を組織的に雇用しており、偽の証明書を作るなどして、低賃金で働かせていた。 
 
 米国では各人につけられる社会保障番号を持っていないと就職できないが、同社では、無効の番号を持った者を多数働かせていた。また国境から不法移民をニューヨークの工場に連れてくることにも加わっていた。 


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