2006年05月19日08時09分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200605190809325

スパルタ式矯正で14歳の少年が死亡 映像は全米で公開

 疲れ気って動けない14歳の少年をキックしたり、殴ったりする矯正施設の係官たち。少年は翌日謎の死を遂げた。この少年の不審死をめぐり、捜査のメスが入ろうとしている。事件の舞台となったのは、米フロリダ州パナマシティにある、“ブーツ・キャンプ”と呼ばれるスパルタ式矯正施設。少年が殴打を受けた時の様子は施設内の監視カメラに収められており、全米のテレビ局を通じてそのショッキングな映像が今、繰り返し放映されている。(ベリタ通信=江口惇) 
 
 米メディアによると、事件が起きたのはことし1月6日。少年はアフリカ系米国人(黒人)のマーチン・リー・アンダーソン君(14)で、同日矯正施設に入ったばかりだった。同施設は州当局が郡保安官事務所に委託する形で運営されている。 
 
 “ブーツ・キャンプ”とは、非行に走った未成年の若者を、精神、肉体の両面から軍隊的な方式で鍛え直す場所として知られる。レーガン大統領時代の1980年代半ばから全米の各地に誕生している。 
 
 アンダーソン君は初日から、ランニングの厳しい訓練を課された。しかし、途中で疲れてダウン。テレビの映像は、動けなくなった少年に多数の係官が、殴打する様子を映し出している。この状態は約40分続いたとされ、その後少年は意識を失い、病院に運ばれたが、翌日死亡した。 
 
 検視官は、少年を司法解剖したが、死因は「鎌状赤血球貧血」で、病死扱いだった。この病気は、血中の酸素が不足し、重度の貧血を起こすもので、黒人に多い症例とされる。この結果、係官はまったくおとがめなしとなった。 
 
 しかし、少年の両親はこれに不審を強く抱いた。この間、ビデオ映像が公開されたため、同州内にある大学の学生らが、真相解明に消極的な姿勢をみせているジェブ・ブッシュ州知事(ブッシュ大統領の実弟)に対し、係官の処分や検視官の免許取り消しなどを求めて抗議行動をした。 
 
 この事件の捜査には、州政府機関フロリダ法執行局が当たっていたが、真相解明には消極的だった。その長官は、元矯正施設のトップだったため、施設をかばう姿勢をみせ、批判を浴びた。 
 
 長官は4月には、局トップとの会合で、真相究明に立ち上がっていた政治活動家ジェシー・ジャクソン師を、米国の伝説的強盗「ジェシー・ジェームズ」と呼んで揶揄。また民主党のバラク・オバマ上院議員を「ウサマ・ビンラディン」と呼び、結局この発言が基で、辞任する羽目になっている。 
 
 長官辞任後、ブッシュ知事は、特別検察官を任命し、ようやく真相解明に乗り出している。 
 
 一方、3月には遺体が掘り返えされ、二回目の検視が行われた。その検視報告は今月5日に公表されたが、死因は病死ではなく「窒息死」だった。係官が、一時的に気を失った少年の意識を戻そうと、手で口を塞ぐ形でアンモニア臭をかがせようとしたため、声門が痙攣し、窒息死したという。 
 
 特別検察官も今回の検視報告を注目しており、現場にいた8人近い係官や、最初の死体解剖を行った検視官に対して、手落ちがなかったどうか解明を急ぐ方針とみられる。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。