2006年05月19日08時13分掲載
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自閉症の若者にも入隊を勧誘 志願者減で米軍に焦り
イラク戦争は長期化し、米軍への入隊希望者も減少している。このため軍の募集担当者はあの手この手で勧誘を続けているが、最近米オレゴン州で募集担当者が、発達障害を抱える自閉症の18歳の若者を強引に入隊させようとしていたことが明るみに出た。若者の両親が、窮状を地元紙オレゴニアンに訴えたことから、事態が表面化した。類似したケースは、他州からも報告されている。今回の問題は、上層部から新兵獲得を命じられている末端の募集担当者の焦りの反映といえそうだ。(ベリタ通信=有馬洋行)
この若者は、ことし6月に高校卒業予定のA君。3歳の時に自閉症と診断された。自閉症は、言語の遅れや、他人とのコミュニケーションが取れないなどを特徴とする脳の発達障害で、軽度から重度までと障害の幅は広い。原因は諸説あり、はっきりしていない。
A君は学校では、特殊学級のクラスで勉強してきた。軍の募集担当者がA君に接触したのは、昨年秋。学校帰りに声をかけられたという。募集担当者は、若者が集まっている高校やカレッジ、ショッピング・モール、遊び場で、これはといった若者に声をかけている。
息子からその話を聞いた両親は驚いた。子どもの時、4歳まで言葉を話さなかった。同じおもちゃと何日間も遊び続けた。高校まで特設クラスで勉強してきた。知能指数(IQ)もけして高いとはいえない。その息子が入隊し、イラク戦争に参加できるとは、思ってもみなかった。
両親の説得であきらめたと思っていたが、数週間後、息子に何時に学校から帰るかと携帯に電話したところ、今入隊のための基礎テストを受けていると告げられ、再び驚いた。現場の募集担当の伍長に、両親は、息子が自閉症だと告げたが、相手は失語症と自閉症を混同する始末。
伍長の上司にも電話したが、米国では18歳の若者は、親の承諾なしに自分で進路を決めることができると、けんもほろろだった。
A君は、軍隊入隊後は、最前線に駆り出される任務に就く訓練を受けることになっていた。家族会議の席上、親類の者がA君に「敵があなたを撃ってきたらどうするの」と尋ねたところ、A君は、ビデオ・ゲームを持ち出し、画面上の“兵士”をやっつけた後、自慢そうに「ほら、やっつけたでしょ」と話したという。
両親の通報により、オレゴニアン紙記者が取材を開始。この結果、軍の募集担当者から上層部への報告には、A君について「自閉症」との記述はなかったことがわかった。
募集担当の伍長の上司は、記者が取材中、録音中のテープレコーダーを突然取り上げ、テープを破り捨てようとした。後日、伍長もA君の自宅を訪れ、「除隊処分になる恐れがある」と、両親に新聞記事にしないよう懇願したという。
オレゴニアン紙は、両親の承諾を得て、A君の診療報告書をオレゴン州の軍上層部にファクスで送付、軍側も調査を開始した。しかし、A君は、依然新兵募集のリストからは外されていない。両親は、このまま何もしないでA君がイラクに送られ戦死かけがでもしたら、一生後悔することになると、話している。
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