2006年05月26日15時21分掲載  無料記事
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「狂気の独裁者と抱擁するのか」 リビアとの国交正常化に反論

 1988年に英スコットランド上空で起きた米パンナム機爆破事件は、中東のリビアの情報機関員が関与したテロだった。そのリビアの最高指導者カダフィ大佐とブッシュ米政権はこのほど、国交を正常化した。パンナム機爆破では、米国人を含む270人が死亡し、2001年の9・11同時多発テロの発生前までは、米市民がテロに巻き込まれた事件としては、最悪のものだった。それだけに、今回の国交正常化について、ある犠牲者の両親は「米国が、殺人を犯した狂気の独裁者と抱擁するとは信じられない」と反発している。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
 米国に向かっていたパンアム機は88年12月21日、英スコットランド・ロッカビー上空で爆破され、乗員・乗客259人が死亡した。このうち米国人は189人と犠牲者の大半を占めた。また機体が墜落した付近の住民も巻き添えになり地元民11人が犠牲になった。 
 
 この事件では、リビアの情報機関員2人の関与が明るみ出、うち一人は無罪になったが、残る一人には終身刑の判決が出ている。 
 
 犠牲者の一人、セオドラ・コーエンさんは、当時米シラキュース大学の学生で、英国での短期の留学を終え、パンアム機で米国に戻る途中だった。そのセオドラさんの父親ダニエルさんが、米紙ロサンゼルス・タイムズに寄稿し、国交正常化への怒りをぶちまけた。 
 
 「カダフィは私の子どもを殺した」と題する寄稿文の中で、「自分の子どもを殺した男に対し、われわれ(米国)の政府は、許しを与えるのか」と問いかけ、これは国家に恥辱を与えるものだと批判した。 
 
 ブッシュ政権がリビアと国交を正常化したのは、2003年にリビアが核開発計画などを自ら公表し、解体することを決めたのがきかっけ。80年代にはカダフィ大佐を「中東で最も危険な人物」と酷評していただけに、隔世の感がある。 
 
 ダニエルさんは、リビアが心を入れ替えたために、国交を正常化したとするブッシュ政権に主張にも反論。 
 
 米政府は、リビアが大量破壊兵器計画を自ら公表し、計画放棄を決めたこと評価しているが、計画自体お粗末なもので、核兵器開発断念というほどの実態はなかったと指摘した。 
 
 また米政権は中東に民主主義を広げようとしているが、カダフィ大佐は依然「野蛮な情緒不安定の独裁者」であり、こうした国と国交を正常化しても、中東に民主主義を広げることにはならないとの見方を示した。 
 
 その上で「米政府は、パンアム機事件について、カダフィになんら責任を取らせないままで終わらせるのか」と反発している。 
 
 一方、ダニエルさんの妻スーザンさんも、別のメディアに対し、米国がリビアとの国交正常化を急いだのは、リビアの持つ石油資源が狙いだときっぱり言い切っている。 
 
 リビアは、パンアム機爆破事件については、これまで犠牲者の遺族に総額27億ドルを支払うことに合意するなど、国際社会に復帰するための基盤整備を続けてきた。ライス国務長官も、リビアの対テロ対策への協力を高く評価している。しかし、リビアの民主運動家を長期拘束するなど、依然問題点を抱えているのも事実だ。 


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