2006年05月28日14時25分掲載
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【IPSコラム】女性の権利の後退 南ア前副大統領レイプ無罪判決 クリスティン・パリッツァ
【IPSコラムニスト・サービス=ベリタ通信】南アフリカのジェイコブ・ズマ前副大統領が、31歳のエイズウィルスに感染者した活動家で家族の友人でもあるクウェジという女性をレイプした罪に問われた事件で、無罪が言い渡された。ウィレム・バンダーマーウェ裁判官の判決は、提示された証拠を基にしている。しかし、真実は、真実のみは告訴人と被告の二人にしかわからない。
4月と5月、南アフリカ人をテレビにくぎ付けにした裁判は終わった。しかし、すべての南アフリカ人に後遺症として残ったのは、女性の権利と女性に対する暴力についてのこの裁判の意味合いである。
法医学的な証拠がないまま、バンダーマーウェはどちらがより信用できるかに基づいて判決を下した。裁判官は「ユニークな特徴を持つユニークな事件」と好んで呼んだこの事件で、告訴人の性的経歴を考慮に入れることは「適切である」とした。クウェジの性的経歴を詳細に公表した後、昨年11月に起きた事件について、ズマが説明するところを最も信頼できると判断した。
すべての南アフリカ人は今や、クウェジをレイプを連続告訴する人物と信じるようになった。確かに、彼女の過去は彼女に特に有利には働くことはないが、彼女がこの事件でうそをついているとは結論することはできない。裁判官はよく分からない理由で、行いが悪い人だからといって悪いことをしたと推定することはないという共通の法的ルールを適用しなかった。その代りに彼が下した結論は、クウェジの信用性は「欠けている」というものであった。その理由は、「若い時にすでに、レイプがなかったのにレイプされたと申し立てたからである」というものであった。
バンダーマーウェはまた、レイプされたという申し立ての多くは、クウェジが未成年の時のもので、南アフリカの法律では、未成年に対する性的行為は法で定められたレイプに当たるという事実を無視した。
裁判官は次に、クウェジがなぜ裁判という心的外傷を受けるようなことを選んだのかという問題を提起する。ここでまたバンダーマーウェは、クウェジは「助けが必要な病んだ人である」という男の証人たち(心理学的な適格性なしに)の意見に同意した。裁判官は彼女の性的経歴からして、クウェジはどんな性的行動も脅しと見なしていたようだと決め、彼女は従順な人間と装いながら、実際は「何を欲しているか分かっている」強い人間なのだと結論付けた。
バンダーマーウェが考えも理解もしなかったことは、影響力のある男が、特に心的外傷を持った、簡単に操作されやすい女性を扱う時には、容易に権力を乱用することができるということである。しかし、この裁判官は「愚か者で、自信過剰なレイプ犯」だけが被害者と話をするために犯行現場に戻ると結論し、ズマの心理的所見と能力を前提とした。
推測をするよりも、彼が何をでき、できないかを立証するために、なぜズマの心理を分析する必要を認めなかったのか。ズマ(64)はすべての南アフリカ人にとって、謎めいた、自信のある公人として知れているからである。
バンダーマーウェは、女性がレイプされている時にどのように対応するか予測することは不可能ではないにしても、困難であるということが明らかに理解できなかったか、理解したくなかった。クウェジの性的経歴の関連性について判断するさいに、この事件の「ユニークさ」を主張したのに、この事件で女性の行動を一般化することが、なぜ適切であると彼は考えたのか。
確かに、性的行為に満足していたとクウェジの行動を解釈することも可能である。しかし、性行為の後によく考えもせずに行動したわけではないということも同じくありうることである。なぜなら、彼女はひどく心に傷を負い、混乱し、脅迫され、南アフリカで最も権力のある男の一人であり、クウェジが公に支持し、あこがれていた男と戦うことになることでひどく脅えていたからである。
国が任命し、尊敬されたメルレ・フリードマン博士によるクウェジの性格分析を裁判か簡単に退け、ズマの弁護団が雇ったルイス・オリビエ博士の調査結果の方が信頼できると判断したのはおかしなことである。レイプされた時に体が凍り付いてしまうのは女性のうち10%だけであるというオリビエの見解が仮に正しいとしても、クウェジはこれに当てはまらないと一体誰が判断できるのか。
クウェジはオリビエに鑑定されることを拒否して彼女自身の信頼性を損なったことは確かだが、誰が彼女を非難できるのか。なぜなら、特にズマが彼の弁護のためにオリビエの費用も含む推定18万5千から27万5千ドルを支払ったというのは周知のことであるからだ。
バンダーマーウェがクウェジの母親は娘に感情的先入観があるという理由で信頼できる証人と見なさなかったのに、ズマの娘のデュデュジレの証言を真実として採用することには気がとがめなかったということに留意すべきだ。デュデュジレは父親に同じく先入観があるかもしれないと裁判官は気がつかなかった。
最後に、裁判官はクウェジが「不適切な服装」をしていたとし、さらに性的な含みを持った会話がその前にあったにもかかわらず、ズマが彼女の部屋にやってくることを拒まなかったとした。言い換えると、結局またも女性が積極的に行動し、性的関係を誘うようなやり方でしたという古めかしい正当化になった。
女の性的経歴、服装、「誘惑するような行動」が彼女にとって不利な条件でまたも使われ、男の性的経歴は議論もされなかった。これは女性の権利にとって大きな後退である。
*クリスティン・パリッツァ 南アフリカ・ダーバンにある女性の権利に関する雑誌 Agendaの編集長。
http://www.agenda.org.za/index.php
(参考)ニューヨーク・タイムズ社説
http://www.worldtimes.co.jp/wtop/paper/html06/sr060515-1.html
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