2006年06月01日13時17分掲載
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米が看護婦不足に悲鳴 海外から大挙受け入れ計画
米国やカナダなど先進国で看護婦不足が深刻化している。一部の病院では、医師を看護婦が足りないため、医師が手術を行いたくても、できない事態が起きてる。こうした慢性的な看護婦不足に対処するため、米国はフィリピンやインドなど外国人看護婦を大挙受け入れる計画を立てている。米国で働けば、故国で得ていた給料よりはるかに高い収入が得られるため、希望者は絶えないとみられているが。しかし、フィリピンなど発展途上国では、貴重な人材である医療スタッフが、ごっそり海外に流出したため、自国の看護婦が足りなくなる事態にもなっている。(ベリタ通信=有馬洋行)
各種報道を総合すると、米国では2020年までに約80万人の看護婦が不足するといわれている。西側諸国は高齢化が進み、今後看護婦の需要は高まると予想されるが、看護婦の輩出数が、これに追いついていないのが実情だ。
カナダのある病院では最近、看護婦不足で手術室が“開店休業”となる日が8日間もあった。この結果、単純計算で64時間分の手術を行うチャンスが失われた。カナダの医療関係者は、米国でも同じような影響が出ているはずだと指摘している。
こうした事情から米国では今、資力にものをいわせて、海外から看護婦を引き抜こうとしている。具体的には、包括的移民法の改正にあわせ、外国人看護婦の受け入れ制限枠を外し、看護婦を大挙受け入れる計画を進めている。
その看護婦の最大の供給国が、東南アジアのフィリピン。かつての米国の植民地であり、看護婦が英語を話すのが強みだ。米国は、フィリピンだけでも、これまでも年間数千人の看護婦を受け入れてきた。米国とは給料の格差が歴然としているだけに、上院案が成立すれば、フィリピンやインド、アフリカ諸国から“看護婦移民”が急増するのは必至だ。
米政府の海外からの看護婦受け入れ策に対し、米看護婦連合は、自国の看護婦育成のメカニズムを構築しないままに、外国人看護婦を受け入れる考えには批判的だ。
人権保護団体も、貧しい途上国から看護婦を引き抜くことは、途上国に広がっているエイズやマラリアの撲滅の戦いに水を差すものだと批判し、これは米国の政策とも矛盾していると述べている。
▼フィリピンも看護婦不足
米国で看護婦が不足しているのは、看護婦養成機関の絶対数が足りないことと、看護婦を指導する教官が足りないためだ。看護婦不足が叫ばれて以来、看護婦希望者が増えているが、養成施設が足りないため、2005年には15万人が受け入れを拒否された。看護婦の教官も、給料が安いためになり手が不足している。
一方、フィリピンでも、看護婦など医療スタッフの海外流出が目立ち、国内の医療水準に影響が出ている。政府統計では、過去3年間に5万人の看護婦が、アジア、中東、米国に流出している。
医師であっても十分な給料がもらえないフィリピン人医師の中には、看護婦あるいは看護士の形で、米国に移民するケースも目立っている。米国に移民後、改めて米国で医師免許を取得し、財政的に成功を収めたフィリピン人医師も数多くいる。
自国で一生懸命育成した医療スタッフが、米国などに引き抜かれれば、自国の医療体制は崩壊する危険性もある。しかし、その半面、フィリピンでは、米国からの海外送金が増え、フィリピン経済に大きく貢献しているともいわれ、痛し痒しの状況になっている。
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