2006年06月18日18時55分掲載  無料記事
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真の脅威と戦わない「テロ戦争」 地球規模の安全保障への道 ジョン・スロボダ

openDemocracy  【openDemocracy特約】BBCテレビの自然番組のプロデュ−サーであるデビッド・アッテンボローが、気候変動は世界が直面している重大な課題であると主張している著名人たちの列に加わった。彼の動機は明白である。「孫から、『おじいちゃん、分かっていたのに、何もしなかったんだね』と言われたくはないからね」(訳注1) 
 
 どのような文化、宗教、イデオロギーに属し、信奉していようと、子供たちや孫たちのために地球を守るということは、われわれの最も深遠な願いに訴えるものである。世界の政治体制全体が、9・11テロとそれがもたらした事態に5年間近くも不毛に取り付かれてきた。米国の主導する「テロとの戦い」は、人類が直面している真の脅威と取り組まなかったばかりでなく、その「戦争」行為そのものが、それらの脅威を悪化させ、人類と環境の安全保障に破壊的な影響をもたらすような状況に近づけた。 
 
 これは、オックスフォード・リサーチ・グループ(ORG)が6月12日に発表した「地球規模の脅威への地球規模の対応:21世紀の持続可能な安全保障」と題する報告書(訳注2)の明確な結論である。報告書はORGの調査員のクリス・アボットとORGの月刊国際安全保障の執筆者でopenDemocracyのコラムニスト、ポール・ロジャーズ、それにわたしによる共著で、今後100年間の安全保障への4つの主要な脅威を示し、行動計画の概略を述べている。 
 
 4つの脅威は次のようなものである。 
気候変動 
資源をめぐる競争 
「多数派世界」が取り残されること 
世界的な軍事化 
 
 もしこれらの脅威が数年以内に食い止められないと、世界は臨界点を越えて、激しい、前例のない紛争の時期に投げ込まれる可能性がある。 
 
 それらの脅威をちょっと見るだけで、それらがどのような規模の危機をもたらすかがわかる。 
 
 第一に、気候変動は海水面の上昇を招き、海岸や川のデルタ地帯に暮らす、世界で最も弱い数百万の人々が移住を迫られる。それはまた、降雨のパターンを変え(特に熱帯で)、干ばつと食糧不足を引き起こす。ハリケーン・カトリーナは、今後起きるもっと深刻な事態の小さな前触れであった。 
 
 第二に、世界の石油埋蔵は使い果たされつつあり、また世界の多くで、深刻な水不足が起きている。しかし、主要国は、これらの資源が無尽蔵であるかのように振舞っている。代替物を探す代わりに、確保のために積極的に競争し、消費を拡大している。原子力が、核兵器を製造しようとしている国やテロリスト・グループのための致死物質としてより、むしろ魔法のつえとしてもてはやされている。 
 
 第三に、富と権力の格差は、同じ国の中でも世界の異なった地域の間でも、広がっている。これによって、不満と置き去りにされたという感情が強まり、政治的な暴力を煽ることになる。しかし、現在の貿易と援助の取り決めは、世界的な経済的不平等にほとんど何もしていない。 
 
 第四に、「平和の維持」には程遠く、世界的な軍事支出は絶え間なく拡大し、新しい紛争をかき立てている。「小型核兵器」などの新型兵器は、核不拡散防止条約などの現在の軍縮体制を不安定にし、より破壊力のあるものがテロリストの手に入りやすくなっている。アフガニスタンとイラクにおける米国と英国による民間人の死亡は、アルカイダへの宣伝材料になっている。 
 
 両国の指導者、ジョージ・W・ブッシュとトニー・ブレアーはイラクにおける戦術的誤りをしぶしぶ認めたかもしれないが、現在の軍事戦略の有効性を根本的に見直そうとはしていない。主要国で、軍事支出を抑制または削減するまともな努力をしている国はない。紛争の起きているスーダン、ビルマ、ネパールへの中国の記録的な武器輸出は、これと反対のことが起きている一ほんの例である(訳注3)。 
 
 これら4つの傾向は、個別に、またそれぞれが組み合って強化されると、世界は破滅への道へ向かう。 
 
われわれ次第 
 
 しかしながら、大きな希望がある。その希望は、この差し迫った最悪の事態に目覚めつつある世界の人々と、それらの人々だけが政府にかけられる圧力にある。グローバルな通信の増加に加えて教育の普及により、ますます多くの人々がわれわれの行動がもたらす悲惨な結末と代替物の必要性をよりはっきりと理解している。この新たな地球的自覚は、次のような3つの強力な社会運動を生み出し、世界中の人々を結びつけている。 
 
 環境運動 
 世界的な公正運動 
 平和運動 
 
 いままで、これらの運動は比較的別々に展開され、政治的・経済的エリートの行動への影響も異なっていた。いまや、それらは地球的な生存のための広範な統一運動の不可欠な3つの柱であると認識すべき時である。どの運動も他がなくては成功することはできない。 
 
 気候変動対策がなくては、軍縮を達成することはできない。貿易の公正がなくては、みながきれいな水を手に入れることはできない。石油に代わるものを開発することなくして、テロを撲滅することはできない。これらの連係のすべては、世界の問題に対する「持続可能な安全保障」対処法の構成要素である。 
 
 この対処方法の主な特徴は、武力を通じて一方的に脅威を制御しようとする(「対症療法」)のではなく、最も効果的な手段を使って、これらの脅威の根本原因を協力して解決することを目指している(「病気の治療」)。悪影響が感じられるずっと前に、紛争と不安定の原因とみられるものに取り組むという点で、この対処法は予防的である。危機が起きるまで待ち、それから事態を抑制しようとしても、その時点では、既に手遅れであるということがよくある。 
 
 これは達成可能なのか。政府が行動するのをただ待っているだけではできない。政府は、狭い国益や経済的利益にとらわれすぎている。地域グループ、宗教グループ、NGO、市民社会のその他多くの人々(ジャーナリストを含む)が、この新しい対処法は現実的で、効果的で、安全保障を確実にする唯一の真の方法であると政府に確信させるためには、連携して取り組む必要がある。 
 
 21世紀の最初の10年間にいるわれわれ市民は、大きな責任とともに行動する空前の力を持っている。今後5年から10年の間に決断することは、最近の歴史のどの時期よりも大きく、地球の未来を変えるであろう。。 
 
*ジョン・スロボダ オックスフォード・リサーチ・グループ専務理事 英キール大学心理学学部教授 イラク・ボディカウントhttp://www.iraqbodycount.net/の共同創設者 www.PeaceUK.netのコーディネイター 
http://www.keele.ac.uk/depts/spire/Staff/Pages/Sloboda/Sloboda.htm 
 
訳注1 5月24日付英紙インディペンデントに寄稿した記事 
http://www.truthout.org/issues_06/052406EC.shtml 
 
訳注2 Global Responses to Global Threats: Sustainable Security for the 21st Century 
http://www.oxfordresearchgroup.org.uk/publications/briefings/globalthreats.htm 
訳注3 中国:紛争と弾圧を煽る秘密裏の武器輸出 
http://alertwire.jp/read.cgi?id=200606161320185 
 
本稿は独立オンライン雑誌www.opendemocracy.netに発表された。 
 
原文 
http://www.opendemocracy.net/globalization-institutions_government/global_security_3630.jsp 
 
(翻訳 鳥居英晴) 


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