2006年06月19日09時48分掲載
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沖縄/日米安保
パッケージ論の落とし穴 「普天間飛行場移設」いぜん難航か 池田龍夫(ジャーナリスト)
「日米安全保障協議委員会」(2プラス2)が在日米軍再編の最終報告を決定したのは、2006年5月1日。当初予定より1カ月も遅れたが、日本国内の調整難航が主な理由とみられる。ところが4日後の5月5日、稲嶺恵一・沖縄県知事は「米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市・辺野古崎への移設は容認できない」と表明、「県外移設が実現するまでの緊急措置として、普天間の危険除去のため、辺野古崎陸上部の米軍キャンプ・シュワブ内にヘリポートを暫定的に設けてヘリ部隊を移設させよ」と要請した。
この新提案を受けて額賀福志郎防衛庁長官は11日、防衛庁で稲嶺知事と急きょ会談。結局、「政府案を基本とし、普天間飛行場の危険性除去・周辺住民の生活の安全・自然環境の保全・同事業の実行可能性――に留意して対応する」など5項目の確認書に合意したが、両国政府が合意したあとに「国内合意」取り付けとはチグハグな話だ。政府に押し切られた形ではあるが、稲嶺知事は釈然とせず、合意後の記者会見で「シュワブ沿岸案に同意したものではない。政府案を基本として、(危険性の除去などについて)お話しする」と述べている。
小泉純一郎政権の「在日米軍再編」実施のための閣議決定は、さらに遅れて5月30日となった。閣議決定の要旨は、「普天間飛行場の移設は日米合意が基本、代替施設の建設計画は沖縄県などとの協議機関で対応、1999年に閣議決定した普天間移設に係る政府方針は廃止▼米海兵隊グアム移転は、所要の経費を分担して実施▼中期防衛力整備計画は再編経費の見積もりが明確になり次第見直し▼新たな負担を担う自治体に対し地域振興策を実施」などで、移設先の「辺野古」は明記されず、先の日米最終合意文書より歯切れが悪い。在日米軍再編の骨格を決めただけで、具体策提示を先送りしてしまったのである。
政府は説明責任を全く果たさず、再編実施に伴う財源や法整備などについての論議を次国会送りにしてしまったことは許せない。日本の安全保障に関する最重要課題なのに、対米交渉のみ優先させて、逃げ切りを計る小泉政権(9月退陣)の卑劣さと国民感情無視の政治姿勢には呆れ果てる。
5月1日決定の「米軍再編最終案」に関しては、既に多くの論稿が発表されているので重複を避けるが、筆者が懸念することを指摘しておきたい。
今回の閣議決定の中に「『普天間飛行場の移設に係る政府方針』(平成11年12月28日閣議決定)は廃止する」との文言が記されていた。振り返ると、クリントン米大統領・橋本龍太郎政権時代の1996年、SACО(日米特別行動委員会)で普天間飛行場の辺野古崎「海上埋め立て」移設案に合意、99年(平成11年)の閣議決定を経て、2003年までに普天間飛行場返還を実現させる段取りだった。10年間、沖縄は普天間問題で振り回されっ放し。一昨年8月には沖縄国際大学構内への米軍大型ヘリ墜落惨事まで引き起こしている。
“海上埋め立て案”は宙に浮いたまま、沖縄県の“本土移設要請”を振り切って代替案を決めたものの、今回合意した移設先も米軍キャンプ・シュワブがある辺野古崎(一部海面埋め立て)で、海上か陸上かの違いがあるにしても、「辺野古」をめぐる駆け引きが再燃してしまった。前回の閣議決定から6年半、「当時の政府方針を廃止する」と述べているが、その間政府が真剣に普天間移設に取り組んだとはとても言えない。行き詰まった挙げ句、振り出しに戻った「辺野古崎移設」の早期実現も極めて険しい。
「在日米軍再編実施のための日米ロードマップ」については既報の通りだが、「沖縄における再編」の<d=再編案間の関係>の項に、重大な伏線を感じる。そこには「●全体的なパッケージの中で、沖縄に関連する再編案は相互に結びついている●特に、嘉手納以南の統合及び土地の返還は、第3海兵機動展開部隊要員及びグアムへの移転完了に懸かっている●沖縄からグアムへの第3海兵機動展開部隊の移転は、(1)普天間飛行場代替施設の完成に向けた具体的な進展(2)グアムにおける所要の施設及びインフラ整備ための日本の資金的貢献にかかっている」と、規定している。厳しい「パッケージ論」で日本政府に網を懸け、米側に有利な再編へ導こうとの意図が明らかだ。
最終合意文書には「普天間飛行場代替施設の建設は、2014年までの完成が目標とされる」と規定しているが、辺野古移設の話し合いがいつ決着し、着工できるのだろうか。今から8年後の完成を誰も確約できまい。海兵隊グアム移転の日本側巨額負担が、簡単に片付く問題だろうか。グアム移転も「14年までに」と記しているが、これまた確証はない。「全体的なパッケージの中で…」と縛られてしまったから、今後地元との調整が難航すれば、設定日時は先延ばしせざるを得まい。米国政府は、日本政府の「ロードマップ」実施の進捗状況をみて対応できる有利な立場にある。平たく言えば、「日本が“最終合意”内容を実施しなければ、米軍は動きませんよ」ということだ。
最も危険な基地といわれる「普天間飛行場」を早急に移設しなければならないのに、聞こえてくるのは「日米同盟強化」の勇ましい掛け声だけ。「日米同盟が、地域及び世界の平和と安全を高めるうえで極めて重要な役割を果たすよう、協力を拡大したいと考えている」との両国共同発表文が、虚ろに響く。
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