2006年06月20日15時15分掲載
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米女子高生怪死事件で母親がみせた執念 抗議のハンストが奏功
昨年12月、米国境に近いメキシコ北西部のバハカリフォルニア州ティフアナ市で、15歳の女子高校生が何者かに誘拐され、死亡する事件が起きた。有力容疑者が捜査線上に浮上し、マスコミは実名を挙げ報道。逮捕は間近と思われたが、なぜか捜査はその後突然尻すぼみに。容疑者が州の名士の甥だったため、捜査に上層部から圧力がかかったためとみられている。これに怒った被害者の母親が、5月末から州政府庁舎前でハンガーストライキを実施。一般市民らもこれを支援し抗議の輪が広がったため、州捜査当局もようやく事件解明に本腰を入れることになった。(ベリタ通信=苅田保)
各種報道を総合すると、死亡したのは、同市の高校に通うベナジール・サラ・チャボジャさん。サラさんは昨年12月7日、何者かが運転する車から、両手を縛れられた状態で、路上に投げ出された。その場所に、運悪く別の車が通りかかり、サラさんはその車にはねられた。その後意識は戻らず、6日後に死亡した。
サラさんは学校帰りに誘拐されたとみられている。彼女の体には、殴打された傷が残っていた。捜査当局はレイプを目的で誘拐したとみているが、サラさんの父親のチャボジャさん(46)は、レイプはされていないと語っている。
捜査当局は殺人事件として犯人に行方を追い、その結果、州判事の甥の男性が捜査線上に浮かんだ。警察は、同年12月、この男性から事情聴取を行う一方、彼の車からサラさんの毛髪を発見した。
捜査関係者は、マスコミの取材に対し、容疑者の名前と顔写真を公表し、事件は八割方解決したと豪語した。父親のチャボジャさんも、事件の解明が間近いと信じ、遺体を火葬にふした。
▼捜査当局に圧力
ところが、捜査が突然ストップ。容疑者は、事情聴取の後、ティフアナ市から姿を消した。容疑者が州判事の甥であるために、捜査に何らかの圧力がかかった可能性が高まった。
市民や死亡した女子高校生の級友たちは、捜査当局の姿勢に強く反発、ことし1月には大規模な抗議デモを行っている。
サラさんの母親のルイスさん(39)も、5月末から州政府庁舎前でミニキャンプを張り、捜査の遅れに抗議してハンストに突入。サラさんの遺灰が入った壷も、小さな祭壇の上に置かれた。高校の級友たちも定期的に顔を出し、ルイスさんを激励した。
ハンストが、市民のほか、政治家や宗教関係者、女性人権活動家などから広範な支持を集める中で、捜査当局も態度を改め、6月7日に犯人検挙のため逮捕状を請求する準備をしていることを明らかにした。このためルイスさんは、実施から9日目でハンストを中止し、自宅に戻った。
メキシコは政治、警察の間で腐敗が広がっており、市民も苛立ちを深めている。ティフアナ市では、麻薬に絡んだ事件や殺人が多発しているが、捜査当局の対応は鈍いと批判の声が上がっている。サラさんの事件が地元で関心を集めているのは、こうした捜査当局に対する怒りの反映といえる。
ルイスさんは、捜査当局が犯人逮捕に動き出したことについて「大変重要なステップ。ティフアナ社会にとっての勝利だ」と話している。
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