2006年07月23日06時06分掲載
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米で移民相手の偽造組織の実態明るみに 女性が告発
米国内で偽の旅券や運転免許証などの作成し、巨額の利益を上げている偽造組織の実態が明るみに出つつある。この組織はメキシコからの移民ファミリーで構成され、ロサンゼルス、シカゴ、ニューヨークなど全米50州で、精密な機械を使って、大掛かりな不正行為をしていた。この組織摘発をめぐる、もう一つの特徴は、偽造ファミリーに属する22歳の女性が、内部告発し、米捜査当局に全面的に協力していることだ。しかし、仲間を売った彼女は今、組織から命を狙われる恐れがあるため、米国内を転々する日々という。(ベリタ通信=有馬洋行)
米メディアによると、米連邦捜査局(FBI)や入国管理当局が組織壊滅の対象としているのは、メキシコ系のカストレナとレイハ・サンチェス両ファミリーが1980年代半ばに構築した偽造ネットワーク。90年代半ばからシカゴなどで摘発に乗り出し、これまで100人近くを起訴してきたが、メキシコにも拠点を持つ偽造組織は、当局の目を巧みにかわして、巨大組織として成長してきた。
この状況に変化が起きたのは、2005年11月。10年間も捜査当局の追及の手から逃れていたレイハ・サンチェスの首領マヌエル・レイハ・サンチェス(38)が、シカゴ郊外で逮捕されたのだ。捜査官は組織が使っていた民家を急襲し、コンピュター、スキャナー、プリンターなど備えた偽造ラボを摘発した。
この米捜査当局に協力しているのが、このマヌエルの義理の娘であるスアド・レイハさんだ。マヌエルの父親はファミリーの一員だったが、死亡したため、母親がマヌエルと再婚していた。地下情報では、マヌエルがスアドさんの母親に横恋慕し、夫を殺害して奪ったともいわれる。
スアドさんは、米国、メキシコを経てニカラグアで学生生活をしているうちに、米国人のビジネスマンと知り合い、結婚する。スアドさんは、夫にファミリーの隠された実態を次第に話すようになるが、その後に夫は、ファミリーの捜査をしていた米国の秘密諜報部員であることが判明する。
この結婚がスアドさんに接近するためのものだったかは不明だが、ともかく二人の関係は続いている。スアドさんは、2006年初めに米国を訪れ、組織の実態について一層協力するようになる。
6月には、米議会指導者とも会談、その後捜査当局のインタビューを受けている。この2週間後には、米政府が指名手配していたカストレナ・ファミリーの首領ペドロ・カストレナ(42)がメキシコで、両国の捜査当局に逮捕されている。ペドロは2005年にデンバーの大陪審から、偽造文書作成で起訴されていた。
▼移民相手に荒稼ぎ
米国内には現在、メキシコからの移民などを中心に1200万人の不法滞在者がいる。彼らが求めるものは、米国内で不法で働くために必要な偽造の身元証明書だ。こうした土壌が、偽造ファミリーに巨額の利益をもたらした。
米捜査当局は、01年の9・11同時多発テロの実行犯のうち、二人が、偽造の証明書を手にいれ、航空機の切符を入手した事実を重視し、一連の偽造団の摘発をテロ対策の一環とみなしている。
スアドさんが捜査に協力するのも、偽造旅券などがテロリストの手に渡るのを懸念しているからだという。しかし、内部告発したことで、組織から命を奪われる恐れがある。
特に義理の父親であるマヌエルは、その後裁判で禁固1年という短い刑しか宣告されておらず、今年中に釈放される見通しという。スアドさんは、なぜマヌエルが1年の刑しか宣告されなかったか、疑問に感じているが、出所すれば、一段と身に危険が迫ると感じている。
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