2006年07月26日14時25分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200607261425203

カナダ首相の冷淡な対応に批判 レバノンの里帰り家族死亡で

  イスラエル軍の攻撃が続くレバノンで、里帰りしていたレバノン系カナダ人家族を含む計8人が、イスラエル軍のミサイル攻撃で死亡した。しかし、この事件に対して、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしているハーパー首相(保守党)は、悪いのは、イスラエル兵を誘拐した過激派組織の方だと指摘。イスラエル政府に対し、何ら苦情を申し入れないと言明した。この首相の冷めた姿勢に、家族が住んでいたケベック州モントリオールのレベノン系社会や一部のメディアから批判の声が上がっている。(ベリタ通信=江口惇) 
 
 イスラエル軍は、レバノン南部で拠点を張るイスラム教シーハ派過激組織ヒズボラが、イスラエル軍の兵士二人を誘拐して、レバノン領内に連れ帰ったとして、空爆などを一週間近く敢行している。この攻撃の巻き添えになったのが、カナダから6月末に5週間の予定でレバノン南部に里帰りしていたレバノン系カナダ人の薬剤師の家族たち。 
 
 各種報道によると、付近で攻撃が活発化してきたために、家族らは、地下の避難所に身を隠した。しかし、イスラエル軍のミサイルで家が炎上し、35歳の薬剤師と、その妻(24)、それに8歳から生後11カ月までの子ども4人の計6人死亡した。そのほか、薬剤師のレバノン人の父親ら2人が死亡した。 
 
 現場はベイルートから南へ50キロの地点。この悲報に、モントリオールのレバノン系社会に大きな衝撃が走った。モントリオールは、ケベック州の最大の都市で、5万人のレバノン系カナダ人が暮らしている。 
 
 特に批判の矛先は、ハーパー首相に向けられた。同首相は、2006年1月の総選挙で中道左派の自由党政権を12年ぶりに破り、保守党政権を樹立した。 
 
▼親イスラエルに転換 
 
 カナダは長年イスラエルに対しては中立的だったが、自由党政権は、次第にイスラエル批判を強め、対イラク戦争でも米国に反対する姿勢をとった。しかし、ハーパー首相は、就任後これを転換、親米、親イスラエル路線に切り替えている。 
 
 イスラエル軍の攻撃で外国人が犠牲になったのは初めてだったが、ロシアの主要国首脳会議(G8サミット)に出席していたハーパー首相は、「家族にお悔やみを申し上げる」と簡単な声明を発表しただけ。逆にその後の会見で、こうした事態を引き起こしたのは、過激派の責任だと述べ、イスラエル側に説明を求める考えはないと述べた。 
 
 その上で、ヒズボラのような非政府組織(NGO)は、一般の国民の間に根を張っているので、一般の犠牲を最小限にするのは難しいだろうと、イスラエル寄りの姿勢に終始した。 
 
 この発言に対しカナダのアラブ系関係者は、首相の対応に「ショックを受けている」とコメントしている。 
 現在、レバノンには5万人のカナダ人がいると推定されるが、ハーパー政権は、米英仏などに比べ、救援対策が後手になっているとも批判されている。 
 
 ハーパー首相の今回の対応について、カナダの一部のメディアは、言葉の表現力の欠如や、同情心のなさを批判している。 
 
 これに対し、首相のイスラエル寄りの姿勢は、個人のイスラエルびいきもさることながら、国内のユダヤ人票を当て込んだ政治戦略との見方もある。保守党は前回の総選挙で勝利したものの、過半数に届かず、政権基盤は安定していない。このため親イスラエルを標榜することで、従来自由党に流れていたユダヤ票をそっくりいただき、保守党安定政権を夢見ているともいわれている。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。