2006年08月05日00時44分掲載  無料記事
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ユダヤ教会堂前などで厳戒体制 米シアトル、殺人事件受け 背景にレバノン情勢か

 西海岸にある米ワシントン州シアトルで最近、パキスタン系米国人も男が、ユダヤ人連盟施設に侵入し、一人を殺害、5人を負傷させる事件が起きた。レバノン情勢が緊迫化している中での事件だけに、地元シアトルでは、今後同種の事件が起きる恐れもあるとして、ユダヤ教会堂周辺での警戒を強化している。その一方で、イスラム寺院に対しても、ユダヤ人連盟での事件に反発して報復が加えられる事態に備えて、警備に当たっている。犯行の動機については、イスラエルへの憎悪が背景にあるとみられているが、犯人を知る関係者は、長く精神的に不安定な状態にあったが、暴力を加えるような性格ではなかったと、一様に驚いている。(ベリタ通信=有馬洋行) 
 
 米メディアによると、男はナビード・アフザル・ハク容疑者(30)。7月28日午後3時すぎ、シアトルの「大シアトル・ユダヤ人連盟」の建物に入り、銃を乱射した。58歳の女性職員一人が死亡し、5人が負傷した。6人はいずれも女性。負傷したうちの一人、デイナ・クレインさん(37)は、妊娠中で、腕を撃たれたものの、気丈にも「911」(警察・消防)に通報。ハク容疑者はこれを見つけ、電話を切るよう命じたが、クレインさんはこれを無視し、話し続けた。 
 
 ハク容疑者は、クレインさんから電話を奪うと、今度は自分で電話口に出て話し出した。そのうちに冷静になり、投降する意思を示したという。間もなく警官隊が駆けつけ、逮捕された。銃乱射が起きたとき、現場のオフィスには20人近く働いていた。 
 
 警察は、銃2丁と弾丸などを押収した。裁判所は29日の審問で、5000万ドル(約57億円)という超高額の保釈金を設定した。検察は今後殺人と殺人未遂で起訴する方針だ。 
 
▼狙われた団体はイスラエル支援のデモ 
 
 狙われた「大シアトル・ユダヤ人連盟」は、地域のユダヤ人の支援を行っている組織。イスラエル軍とイスラム教シーア派過激組織ヒズボラとの戦闘をめぐって、7月23日には、イスラエル支援のデモを主催している。 
 
 ハク容疑者は、インターネット上で、ユダヤ人の関連施設を物色し、攻撃の対象を「大シアトル・ユダヤ人連盟」に定めたとされる。犯行時、同容疑者は「私は、イスラム教徒の米国人だ。イスラエルに腹を立てている」などと、口走っていた。このため、多くのメディアは、犯行の動機は、人種への反感に根ざした「憎悪犯罪」と書き立てている。 
 
 ハク容疑者の父親は、ワシントン州の核関連施設で働いていた技術者で、1981年に地元にイスラム教普及のイスラム・センターを開設している。同容疑者は、高校まで前途有望の若者とみなされ、その後歯科技工士の勉強をしたが挫折している。また失恋などもかさなり、精神的に不安定になったとされる。一部の情報では、多重性格で治療を受けていたという。 
 
 イスラム教徒だが、特に熱心でもなかった。知人の多くは、心の病気を患っていたが、暴力を引き起こすような性格ではなかったとショックを受けている。 
 
 ハク容疑者はことし3月に、地元のショッピング街にある噴水の上にあがり、通行人の女性に、自分の体を露出する事件を起こしている。近く裁判が行われる予定だったが、今回の事件により、延期になっている。また28日には、乱射事件を起こす30分前に、バスレーンを違法走行し、警官に見つかっていた。その時は特に変わった様子はなかったという。 


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