2006年08月08日09時54分掲載
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日中・広報文化交流最前線
進化する日中青少年交流(1) 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)
●訪日青年たちの「同窓会」も誕生
日中間では様々な青年交流が行われている。有名なのは3千人交流と言われるもので、胡耀邦総書記(当時)のイニシャチブにより、1984年、日本から3千人の青年が訪中した。当時、中国側で受け入れ実務にあたった蔡武氏(現国務院新聞弁公室主任)や、大学生として交流に参加した劉建超氏(現外交部新聞司長)らは、当時の暖かい交流を懐かしんで思い出話を語ってくれる。国際交流の経験がなく、外国人を受け入れるインフラも整っていなかった当時の中国で、3千人もの日本人青年を受け入れるということは、今では想像できない程のインパクトのある事業だったようだ。
国際協力機構(JICA)は中華全国青年連合会と協力して中国から毎年青年を招待するプログラムを実施している。日本に行った中国人で、日本に対する印象が悪くなった人はまず皆無と言って良いだろう。湖北省からJICAプログラムで行った人たちは、帰国後、自発的に日本訪問の印象記の文集を作成し、また一緒に訪日したグループで定期的に面会し、いわば「同窓会」を組織している。筆者が2004年5月湖北省を訪問した際、彼らの「同窓会」に参加する機会に恵まれた。日本訪問の思い出を媒介に、中国人が自発的にフォローアップの組織を作っていることは歓迎すべき新しい動きである。これは、公募により問題意識のある中国人青年を参加団員に含めることを始めたので、そのことが自発的な「同窓会」組織の立ち上げに繋がったと言える。
外務省予算で、本年度は中国人高校生1100名の短期訪日招待、また中長期の高校生訪日招待(長期は1年間の日本留学)が実施される。日中友好会館、国際交流基金が実務を担当している。5月に200名の中国人高校生が短期日本訪問をしたが、その模様は同行した中国教育テレビ局により、7月、7回にわたって中国国内で放送された。多くの中国人視聴者が、日中の高校生が日本で楽しそうに交流する様子をテレビで見たことの意義は大きい。教育テレビは、中国人高校生が日本の国会議事堂を訪問する様子も映したが、これが、日本の政治体制への関心を持たせ、理解を深めさせるきっかけになれば素晴らしい。
●交流プログラム進化の条件
日中間の相互訪問者が年間400万人にもなる中で、日中間の青年交流事業も常に成果を挙げていくことが期待されている。たとえば以下のような諸点で中身を不断に工夫していくことで、交流プログラムを「進化」させることが重要だろう。
――やはり人間的な触れ合いを増やし、共感を拡大させること。昨今の日中関係においては、国民の間の直接の交流が特別な重要性を帯びてきている。日本においては、ホームステイをして、日本人家庭の温かさに触れると中国人は非常に感動する。訪日プログラムでは是非ホームステイを入れるべきというのが関係者の共通認識になってきている。中国でも日本人青少年がホームステイをする機会が増えれば素晴らしい。
――お互いの共通点と相違を正確に理解すること。中国側にとっては、今日の中国が直面する社会・経済的な課題(環境、省エネ、教育、農村開発、貧富格差是正、腐敗・賄賂、行政の透明性、社会的弱者の保護等)の解決策を考える上で、日本の取り組みを見聞することは大きな意義がある。
――中国の青少年に、戦後の日本の民主主義、平和主義、善隣友好外交(ODA等含め)、国際社会からの評価を理解してもらうこと。国会議事堂、政府関係機関の訪問等のアレンジも必要になる。若手中国人記者の訪日に際しては、防衛庁にもご協力頂き、防衛庁訪問などもプログラムに入れている。
――訪日をきっかけに日本理解者の輪を広げ、固めていくこと。前述の湖北省での動きはその初期段階の成功例である。「日本、日本人を知りたい」というやる気のある若者が青年交流に参加できるように仕向けていく必要がある。
――公的機関の予算のみならず、民間企業、自己資金による交流プログラムを実施し、交流の裾野を拡大すること。本年夏、筆者が知っているだけでも、日本の電器メーカーのS社が中国人高校生を招待したり、中国人青年が自費で沖縄に行き日韓の青年と共にキャンプを過ごしたりといった例がある。沖縄でのキャンプに参加するための経費1万元(約14万円)は、一般の中国人家庭にとっては決して安くはないが、ある親は「日本を知ることは重要なので、子供を日本に行かせることにした」と筆者に語ってくれた。
各種の交流は本来自由に行われるべきものであるが、制度的、心理的、その他の障害・困難がもしあれば、それを乗り越え、更に交流が盛んになるように手助けすることが関係機関の務めである。
財政面、渡航関連手続き、交流のパートナー探し、公的機関訪問へのアレンジ等の面での支援が引きつづき求められている。
次回は、中国の若者が訪日後にどのような感想を持つか等についての観察を述べたい。(つづく)
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。)
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