2006年08月28日16時28分掲載
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連続殺人鬼が臓器提供の善行? 遺族は「偽善」と反発
米ニュージャージーとペンシルベニア州で入院患者に致死量の薬を投与し、29人を殺害し、終身刑で服役中の元看護士が、重い腎臓障害に苦しむ元ガールフレンドの肉親を救うため、自らの腎臓を提供した。摘出された腎臓は、空路ヘリで、移植を待つ患者の下に運ばれ、手術は無事終了した。元看護士も元気だという。連続殺人鬼といわれた元看護士が、なぜ人命を救う行動に出たか、その動機は不明だ。元看護士に肉親を殺害された遺族は、多数の人命を奪っておきながら、人の命を救う行動を取るのは「偽善だ」と怒っている。(ベリタ通信=有馬洋行)
米メディアによると、腎臓摘出手術は8月26日に、ニュージャージー州トレントンにある病院が管理する刑務所内病棟で行われた。臓器を提出したのは、チャールズ・クレン(46)。
クレンが腎臓を提供した相手は、元ガールフレンドの「兄弟」の一人とされるが、氏名は公表されていない。臓器は、直ちにニュージャージーから、この男性が待機しているニューヨーク州ロングアイランドの病院に運ばれ、手術が実施された。経過は良好だという。
男性は重度の腎臓障害で、1週間に3度の人工透析を受けている。担当医の話では、臓器移植が行われない限り、助からない状態だった。
クレンは1980年代後半から2003年にかけて、両州の40以上の病院で勤務中に、多数の患者を殺害した。裁判では、29人の患者殺害と6人の殺人未遂に問われた。2004年4月に、検察側と司法取引で合意し、捜査に協力する姿勢をみせた。
しかし、未決拘置中だった05年12月に、ニュージャージー州の裁判所に対し、臓器提出の許可を裁判所に要請。これが認められない限り、判決公判に出廷しないとの揺さぶり作戦に出た。
裁判所は2月に臓器提供を許可。しかし、患者の待つニューヨーク州まで、クレンが出向いて臓器を提出するという請願については、治安上問題があるとして、認めなかった。
裁判所がクレンの移送を渋ったのは、仮にクレンをニューヨーク州の病院に移植のために入院させた場合、クレンを担当する看護婦(士)たちの反応を懸念したためだった。
クレンは看護士として地位を利用し、多数の患者を殺害していた。そのクレンに看護婦や医師が好感情を抱いているとはいえない。そうした状況下では、何が起きるかわからない。そのため臓器摘出はニュージャージーで行われることになった。
しかし、クレンの行動が「善行」とみなされるかどうかは議論の分かれるところだ。クレンの常軌を逸した行動で、多くの患者の遺族が苦しみを味わったからだ。
遺族の一人は、一人の男性を救うことで、クレンが贖罪されると考えるとすれば、それは間違いだと指摘している。
クレンはカトリック教徒の家庭の末っ子としてペンシルベニアで生まれた。父親とは幼くして死別。母親はその後交通事故で死亡し、クレンは高校を中退し、海軍に入った。このころから精神的に不安定な行動を取るようになった。若い時から自殺未遂も何度か試みたという。
大量殺人を企てたのは、患者を苦しみをなくすためだったと話している。しかし、患者を殺すことで、遺族が悲痛にくれることまでは、考えていなかった形跡があるという。殺害もかなり衝動的なものだったとみられている。
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