2006年09月03日18時58分掲載
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「ミーダーン パレスチナ・対話のための広場」 私たちの問題としての想像力を 攝津 正
A「2006年9月2日(土)に大久保地域センターで催された『「ミーダーン パレスチナ・対話のための広場」結成集会 いま、パレスチナと私たちを繋ぐもの』に参加してきたそうだね。どんな感じだったか、感想を聞かせてくれないか。」
B「一言で言うと、とても充実した集会だったと思うよ。上映されたビデオも、占領という苛酷な状況下で生活し闘う人達を活写していたし、講師の方々によるお話もとても興味深かった。残念な点を一つ挙げるとすれば、時間の関係で、会場との討論が十分でなかったことくらいかな。」
A「先ず、ビデオについて、もう少し詳しく説明してくれないか?」
B「運動団体が制作したもので、インターネットで無料で公開しているものだ、と聞いている。『キャンプに太陽は輝かない』という題名で、35分のものだ。バラータ難民キャンプを舞台にしている。」
A「君が一番驚いた、ないし感銘を受けたことは何だった?」
B「子どもたちの生き生きとした抵抗だ。かれらは、イスラエル兵が怖くない、と言う。そして、戦車に立ち向かって石を投げるんだ。この勇気がどこからくるのか、本当に不思議に感じたよ。」
A「占領者であるイスラエル兵は酷いことをしているよね。家屋破壊とか、暴力、殺戮とか…。」
B「そうだ。圧倒的な暴力の行使に晒されて、パレスチナの人達は傷付いている。私達がかれらに関心を持ち、支援していく必要があるんだ。」
A「必要な支援はお金ではなく、かれらの側に立つということだね。」
B「ビデオの中のパレスチナの人は、確かにそう言っていたよ。」
A「パレスチナ問題は、遠くでの出来事だけれども、想像力を働かせて他者を注視していかなければならない、ということだね。」
B「そうだと思うよ。」
A「では次に、集会について聞きたいのだけれど。二人の講師の方のお話はどうだった?」
B「どちらのお話も、重要な論点を含んでいたと感じるよ。」
A「先ず、栗田禎子さんのお話から。」
B「栗田さんは、レバノン侵略をシオニズムの新たな段階と捉え、入植者国家イスラエルの危険性に警鐘を鳴らしていたよ。」
A「もう少し詳しく説明すると?」
B「シオニストといっても、自分達が権利があると考える土地をかつてのイギリス領パレスチナと狭く捉える人達もいれば、中東全域に渉って自分達に権利があると考える人達もいる。それで、事態の展開によっては、中東全域が『パレスチナ化』する可能性すらある、というんだね。レバノンや、エジプトや、シリア等々も…。」
A「それは考えるだに恐ろしい筋書きだね。」
B「アメリカの国家戦略として、『拡大中東』構想というのがある、という話も聞いた。中東地域を、自分達の都合が良いように再編しよう、という構想だね。アメリカは、これにEUや日本も巻き込んでいこうとしている、と聞いた。」
A「日本に住む私達も、他人事ではないね。」
B「そうだ。そもそも、イスラエルをアメリカが支援し、そのアメリカに日本は追随している…。そういう根本的な構造の問題があるよ。」
A「その通りだね。では次に、太田昌国さんのお話について聞かせてくれないか。」
B「太田さんは、パレスチナ問題を扱ったゴダールのドキュメンタリー映画に言及することから、話を始めた。太田さんは、うまくいかなかったにせよ、世界大の問題に取り組もうという姿勢を見せたゴダールを評価した。そして、湾岸戦争の頃の旧ソ連・東欧の社会主義圏の崩壊、さらには第三世界の解放戦争・革命戦争を経た国々の政治の独裁化などを指摘し、かつてのようにナイーブに社会主義や第三世界の解放運動などを支持するわけにはいかなくなった、と語った。そして、湾岸戦争に関して、アメリカの戦争には反対しなければならないが、そのことがフセインの暴虐や独裁を免罪することであってはならない、と言った」
A「正論というほかないね。それについて、君はどう思った?」
B「私はイラク戦争の頃、デモに行こうか行くまいか、迷っていたことがあった。それで、最終的にはデモに行くことにしたのだけれど、その決断に際して、酒井啓子というイラク研究者の『イラクとアメリカ』という新書を読んだことが力になった、ということを思い出したよ。」
A「というと?」
B「ブッシュにもフセインにもNO、という立場があり得ると思ったんだ。酒井さんの本では、アメリカの経済制裁の齎した酷い被害に言及するとともにフセインも批判していた。その立場性に共感した、ということだ。」
A「それにしても、太田さんの問題提起は根本的なものだよね。解放志向の左翼陣営の崩壊を目の当たりにした私達は、素朴に進歩主義的言説や解放主義的言説を信じることはできない。それは確かにそうだ。しかし、その立場は、容易にシニシズムやニヒリズム、現状肯定に陥ってしまいがちではないだろうか?」
B「それはその通りだ、と私も思うよ。『大きな物語』或いは形而上学は終わった、というわけだ…。でも現実を見ても、希望の芽はあちこちにある、とも感じるよ。『もうひとつの世界は可能か』と問う世界社会フォーラムや、9・11同時自爆事件以降の新しい反戦・平和運動、さらにはエコロジー運動など、活発な活動が絶えず新しく生まれ、継続している。それらの現実の運動の中から、新しい希望が生まれてくることを、私は信じているよ。」
A「冷戦構造崩壊後、アメリカ一極支配のグローバル化した世界が現出した。でもそのことは、もはや批判や闘いが不要だということではなく、かつてなく大規模な新たな闘いを準備し創り出す必要がある、ということを意味するよね。」
B「もはや国家権力に頼らない対抗運動を創っていかなければならないね。」
A「それと、知的な批判や思考の自由を確保しなければならない。実践の優位を口実に、運動に内在する問題性に目を瞑る態度は欺瞞的だ。例えば、パレスチナを支援する運動にしても、パレスチナ人のイメージを自分の頭の中で作り上げて、それに自己同一化する、といった傾向があったように思う。それは、本当の意味で他者を尊重することではないよね。多様なパレスチナの人達と具体的に交流し繋がりを作っていく、お互いのことを知っていく、という漸進的で長期持続的なアプローチが求められると思う。」
B「異論はないよ。『ミーダーン』が今後どうなっていくかは分からないけれど、自分なりにパレスチナの地で起きている出来事に関心を持ち続けるための機会として大切にしたい。」
A「今日はどうもありがとう。では、また!」
B「では、また!」
*ミーダーン パレスチナ・対話のための広場
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