2006年09月10日09時46分掲載
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日中・広報文化交流最前線
改革開放の拠点・広東省の今と昔 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)
●中国近代の改革者・康有為の出身地にて
広東省仏山市南海区は、清朝末期の改革運動の康有為(1858〜1927)の出身地である。筆者は、9月初め、南海区にある康有為記念館を訪問し、彼の業績が如何に故郷で記念されているかを見聞することができた。記念館の展示では、康有為が日本の明治維新等を紹介する『日本変政考』や『日本書目志』等を著したことが紹介されていた。康有為はフランス、ロシアなどの政治事情についても著しているが、『日本変政考』は最も重要な著作とされる。
同じく改革運動家の梁啓超(1873〜1929)も広東省の新会市の、また孫文(1866〜1925)も広東省の中山市の出身である。明治維新も参考にして、光緒帝(1871〜1908)、康有為、梁啓超らは1898年6月11日に維新運動(「戊戌変法」)を開始した。あまり知られていないが、康有為は、維新運動が強い抵抗に直面していた同年9月19日に、北京の日本公使館を訪問し、北京訪問中の伊藤博文と面会し、改革と光緒帝を支援するように要請した。光緒帝自身、翌9月20日、伊藤博文と会見している。康有為は、伊藤博文が光緒帝に助言と支援を与え続けることを希望していたことについて、記念館で説明を受けた。
この維新運動は、西太后らの反対派により、9月21日、僅か103日で潰されてしまい、光緒帝は幽閉され、康有為、梁啓超は日本に亡命した。その後、康有為は日本、欧州、その他アジアなど31カ国を訪問し、『欧州11カ国遊記』等の外国事情についての本を出版した。改革のために外国事情を研究し本を著したという点では、福沢諭吉と似ている。福沢諭吉が日本国内で活躍し、その著書、活動を通じて日本の近代化に大きな貢献をしたのに対して、康有為は外国に逃れ、皇帝擁護派として、革命の流れから取り残されていった。
中国においては、文化大革命が終わり1978年に改革開放政策が開始された後、康有為も評価されるようになり、1986年にこの康有為記念館が開所した。現在、康有為は近代中国の偉大な改革先駆者として、故郷で高く評価され、地元の人たちは広東省を改革運動の発祥地と自負している。康有為の業績を学術的に研究するに当たり、日本での活動等についての研究のインプットは中国側も歓迎するであろう。筆者から、仏山市、南海区政府関係者に、康有為についての日中学者による学術シンポジウムの開催を提案したところ、前向きに検討したいとの反応であった。
●現代の中国の改革開放に貢献している日本
現在、仏山市南海区は、目覚ましい経済発展を遂げた中国でも有数の地区である。広東省は、香港、マカオに隣接し、香港、台湾、そして日本をはじめとする海外からの投資を得てきた。南海区には自動車部品、電器メーカー等約25の日本企業が工場を建設しており、100人もの日本人ビジネスマンが住み、地元と様々な交流をしている。本年8月、南海区を台風が襲い、被害を与えたが、日本人ビジネスマン達は、自らのイニシャチブで支援を募り、被害に遭った人たちへの義捐金として寄付したそうである。このような日本企業の貢献を仏山市政府、南海区政府の関係者も高く評価していると筆者に語ってくれた。南海区政府の貿易投資担当者も、頻繁に訪日して、日本とのビジネス発展のために尽力しているとのことであった。
昔も今も日本は中国の改革開放に大きな影響を与え貢献してきた。現代の改革開放では、多くの日本人が良き助言者として中国で働いてきた。近代・現代における日本と中国の多面的・重層的な関わりの総体について、中国人に理解を深めて貰うことは、筆者の願いであり、重要な仕事である。
広東省は、昔も今も改革開放の重要な拠点である。その省のテレビ局(「広東電視台」)のトップ(「台長」)と筆者は面会し、日本と中国の協力の歴史と現状を取りあげた番組を作り、同テレビで放送するというアイデアについて意見交換した。広東テレビ局の幹部は、日本で勉強している中国人留学生、研修生の現状を取りあげた番組作りに強い意欲を示してくれた。省レベルのテレビ局が放送することは、その省のみならず、中国全土で視聴できることを意味するので、このような企画が実現することの意義は大きい。関係方面の御協力を得て、この企画を実現できれば素晴らしいと思っている。(つづく)
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。)
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