2006年09月16日19時49分掲載
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日中・広報文化交流最前線
日中関係とマスコミの役割で討論会 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)
●日中の記者達が白熱した議論を展開
8月12日、土曜日を丸一日使って、北京の中日環境保護センターで日中ジャーナリスト達が集まる会議(日中ニュースメディア研究会)が開催され、筆者も参加した。これは、日本大使館広報文化センター、国際交流基金北京事務所、中日関係史学界、中日新聞事業促進会の4者共催のイベントである。
日中双方において、双方の国民の相手国に対する感情が悪化しているが、「その責任の一端はマスコミにある」という見方がお互いに広まっているようである。中国側にすると、「日本のマスコミの報道が悪いので、日本人の対中観が悪化しているのだ」という見方である。
日本側は北京に駐在している共同通信、時事通信、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞、毎日新聞、東京新聞、北海道新聞、NHK等、中国側は人民日報、新華社、光明日報、中国青年報、北京日報、中国中央テレビ(CCTV)、経済、新京報、鳳凰週刊、世界新聞報、中国新聞週刊、中国経済時報等の記者達が参加した。
ここで注目すべきは、従来の中国の伝統的な政府系マスコミ(人民日報、新華社等)と、新しいメディア(新京報、鳳凰週刊等)の双方の記者が参加したことである。前者は「大報」、後者は「小報」と呼ばれる。「大報」と言っても、特に発行部数が大きいということではなく、むしろ「小報」の方が発行部数が多い。「大報」は公務員が職場で、「小報」は庶民が自宅で読むといった違いがある。
両方の記者とも、筆者が日頃付き合っている友人達である。この「大報」と「小報」の記者達の発想、視点は時には違いがある(その違いについては後述参照)。話し合いの後、この種の意見交換会には、双方の参加が不可欠であると痛感した。
●「大報」「小報」の記者が日中マスコミに物申す
午前のセッションでは、中国の記者達(新華社、光明日報等)が、「日本のマスコミは、中日関係の大局に悪影響を与えないように、何を報道するか否か選択すべきだ」「『瀋陽総領事館事件』での日本の報道は、事件の全体像を伝えずに一部の映像を繰り返し放送したことから、日本人が総合的に事件を理解することを妨げた」と日本の報道を非難することから始まった。
これに対して日本の記者達は、「報道の目的は、まずは事実を伝えること」「記者が何を報道するか否かを選んでいって、『良い報道』しか掲載しなくなると、読者はやがてその新聞を信用しなくなる」「日本のマスコミの役割は国民の『知る権利』に応じること、そして権力の監視である」と反論した。
中国側発言者からは、「日本、中国共に、対立感情を煽る報道があることに懸念している」との声もあり、今後のマスコミがどうなっていくのか、率直な懸念の声もあった。
午後のセッションでは、午前中黙っていた新京報、鳳凰週刊等の「小報」の記者が口を開き、中国のメディアのあり方について率直な意見を述べ始めた。「中国のメディアの活動には種々制約があることを口実にすべきではなく、我々ができる報道の仕事をもっと一生懸命やるべきだ」「宣伝機関とマスコミの役割を混同すべきではない」「日本の記者はよく勉強して活動しており、それを見習うべきだ」「中国国民は、外交に関して『大報』の報道では満足しなくなっている」「中国国民が実際に読んでいるのは『小報』であり、『小報』も外交に関する記事をもっと執筆していくようになるだろう」。
かなり率直な発言であり、この率直振りに感嘆した東京新聞記者が記事にしている(8月30日付同紙。この記事は、若い中国人記者の発言を紹介し、「彼(=中国の若い記者)のような若者の出現に驚きと喜びを感じた」と書いている。)
この会議には参加しなかったが、環球時報、国際先駆導報、青年参考、華夏時報、法制晩報といった「小報」の各新聞は、活発に外交問題、日中関係、日本関連記事を掲載している。これらの新聞が中国の読者に与える影響はやはり大きい。
●日本のメディアへの期待
中国側の多くから、中国のメディアは現在発展途上にあり、記者達が習熟するために支援が必要という声があがった。
また中国の複数の記者から、「日本のマスコミの報道を見たいが、英語または中国語に翻訳してインターネットに載せているマスコミは非常に少ない。もっと増やして欲しい」という要望が出された。
これらは筆者も是非関係方面にお願いしたいと思う。
日中のメディアのあり方、政府のメディアへの対応には相違があることは厳然とした事実であるが、中国の一部の記者達はそれを理解しつつ、どうしたら良いか模索しているようである。日本の記者の一人は、「以前に比べると中国のマスコミもだいぶ西側に近づいてきた面がある」と発言した。マスコミの役割について、このような率直な意見交換の場が増えることを期待したい。参加者達は、毎年このような意見交換の場を持ちたいと述べ合っていた。(つづく)
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。)
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