2006年09月21日12時17分掲載  無料記事
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89歳の米暴走運転手が「事故」を主張 高齢者運転は危険か

  米国の街角では、しばしば車を通行止めにして近隣の農民らが果物や野菜を売る特設市場が開設される。青空の下で、収穫された旬のものが買えるとあって、家族連れなどもが訪れ、賑わいをみせている。そうした平和な風景が3年前、米カリフォルニア州サンタモニカで破られた。80歳台後半の男性ドライバーが運転する車が、防護フェンスを突き破って市場内に侵入、次々と買い物客らをはねとばした。10人が死亡、60人以上が負傷する大きな惨事になった。(ベリタ通信=江田信一郎) 
 
 高齢者が起こした事故だったため、当時、高齢者に運転免許証を付与すべきかどうかをめぐり、大きな社会問題になった。検察側は、車を運転していたジョージ・ラッセル・ウエッラー被告(89)を10件の故殺の罪などで起訴。その裁判が9月から始まっている。 
 
 審理開始の当日、ウエッラー被告は、車椅子に乗って裁判所に出廷した。裁判所の計らいで出廷する必要はなかったという。結局、昼の休憩時間の後、法廷には戻らなかった。 
 
 審理は6週間続くとみられているが、有罪の場合、最高で18年の禁固刑に処される可能性がある。服役すれば獄中で107歳に達する。カリフォルニア州には現在16万人の受刑者がいるが、最高年齢者は93歳という。 
 
▼犯罪でない 
 
 米メディアによると、検察側は裁判で、ウエッラー被告は意図的に青空市場に侵入したと主張。これに対し、弁護側は、被告は車を止めようとしたが、アクセルペダルをブレーキを勘違いしてしまったと述べ、これは犯罪でなく、事故であったと反論している。 
 
 ウエッラー被告は青空市場内に侵入するまえに、他の車と軽い接触事故を起こしている。これに焦り、早く現場から離れようとしているうちに、市場内に入ったともいわれている。 
 
 ともかく、被告の車は時速96キロで買い物がのんびりと歩いている市場内に入り込んだ。検察側の目撃者の話では、被告はハンドルを両手で握り、前方を見据えていた。車は約240メートルにわたって暴走した。 
 
 最初の被害者はホームレスの男性。体が宙に舞い、死亡した。その後幼児や大人の計10人を次々とはねた。惨事の直後、検察側の目撃者によると、被告は、自分の車が向かってきているのだから、通行人はかわすべきだったと、居直りとも思える発言をしていた。 
 
 これに対し、弁護側は反論し、被告は車を止めようと、ブレーキペダルを何度も踏んだが、実はアクセルを踏んでいたと指摘。また暴走した距離の半分の地点で、運転席のエアバッグが作動し、これに邪魔されてペダルに足が届かなかったとも述べている。 
 
 弁護側の目撃者によると、事故直後、被告は「ブレーキをかけたが何も起こらなかった」と述べ、どうしたのか目撃者が聞くと、被告は「わからない」と答えた。 
 
 米国ではこの惨事の後、高齢者の運転の是非が活発に討議された。現在はかなり下火になっている。高齢者の場合、運転上の問題は視力の衰えと、反応速度の鈍さが挙げられている。しかし、100歳でも現実に運転している高齢者もおり、一概に何歳まで運転が許されるかの線引きは難しそうだ。 


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